「新型コロナに感染したらどうしよう…」「感染リスクの高い職場に行くのが不安…」という妊娠中の女性が増えています。こうした不安を抱える女性労働者を支えるべく、厚生労働省が新たな助成金制度を設け、昨年5月から運用を開始しました。その名も、「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金」。妊娠中の女性に特別有給休暇を付与した場合、企業に対して一定額の助成金を国が支給する制度です。具体的にどのようなものなのか――以下でご紹介します。
「母性健康管理措置」とは?
助成金制度の詳細に入る前に、「母性健康管理措置」について確認しておきましょう。
「母性健康管理措置」とは、男女雇用機会均等法において、企業に対して義務づけられた措置のひとつです。具体的には、妊産婦(妊娠中、および出産後1年以内の女性労働者)が、医師などから保健指導や健康診査を受ける場合、企業はその時間を確保しなければならないというもの。また妊産婦が、医師などから「勤務時間を短くしなさい」や「休憩を多めにとりなさい」といった指導を受け、それを企業に申し出た場合、企業はそれに応じなければなりません。
なお、保健指導や健康診査を受診するために確保しなければならない頻度は、次のように定められています。
時期 | 頻度 |
妊娠23週まで | 4週間に1回 |
妊娠24週から35週まで | 2週間に1回 |
妊娠36週以後出産まで | 1週間に1回 |
出産後1年以内 | 医師などの指示に従って必要な時間を確保 |
※有給にするのか無給にするのかは、各企業に委ねられています。
男女雇用機会均等法の基本理念は、働くうえでの「男女差別をなくすこと」と「母性を尊重すること」の2つですが、「母性健康管理措置」は、後者を実現するために、企業に対して義務づけたものだといえます。
今回、新型コロナウイルス感染症の流行をふまえ、この「母性健康管理措置」と関連した「休暇取得支援助成金」が設けられることになりました。どのような助成金なのか――その中身を見てみましょう。
「母性健康管理措置による休暇取得支援助成金」とは?
新たに設けられた助成金制度では、次の3つの条件を満たす企業に対して、国が助成金を支給します。
3つの条件
2020年5月7日から2021年3月31日までの間に、
- 新型コロナに関する母性健康管理措置として、医師または助産師の指導により、休業が必要とされた妊娠中の女性労働者が取得できる有給(※)の休暇制度を整備すること
※ただし、年次有給休暇を除き、年次有給休暇の賃金相当額の6割以上が支払われるものに限る - 上記の有給休暇制度の内容を、新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置の内容とあわせて労働者に周知すること
- 上記休暇を合計して5日以上取得させたこと
つまり、妊娠中の女性を対象とした有給休暇制度を整備し、周知・運用した企業に対して、その実績をもって国が助成金を支払うということです。
だれが休暇取得の対象なのか?
もう少し詳しく見てみましょう。妊娠中であれば誰でもOKというわけではありません。
対象者の条件は、以下の通りです。
- 妊娠中の女性労働者であること
- 保健指導・健康診査を受けた結果、新型コロナへの感染のおそれに関する心理的ストレスから、母体あるいは胎児の健康保持に影響があるとして、医師や助産師から指導を受けたこと
- それを事業主に申し出たこと
「医師・助産師から指導を受けたこと」が条件なので、妊娠中の女性自身の「自己申告」のみでは、本助成金制度の対象とはなりません。
なお、医師や助産師から指導があったことを、上司に説明しづらいケースもあります。そんなときのために、「母性健康管理指導事項連絡カード」というものが準備されています。
医師・助産師がカードに必要事項を書き、妊娠中の女性に渡します。それをもとに、妊娠中の女性は、上司に状況を説明するという流れです。必ずしも使わなければならないものではありませんが、これを活用すればスムーズにコミュニケーションがとれるでしょう。
どんな休暇が対象となるのか?
助成金の対象となるのは、上記を満たす妊娠中の女性が、労基法に定められた通常の年次有給休暇ではなく、別枠の特別有給休暇を使って休んだ場合です。
特別休暇の条件は、以下の通りです。
- 通常の年次有給休暇ではない、別枠の特別休暇であること
- 別枠の特別休暇は、賃金相当額の6割以上が支払われること
- 2020年5月7日~2021年3月31日まで(延長の可能性あり)の間であること
無給の休暇ではもちろんダメですし、通常の年次有給休暇を消化するだけでも、本制度の対象とはなりません。
具体的な助成額は?
こうした条件をクリアした場合、以下の金額の助成金が、企業に対して国から支払われます。
休暇日数が5日以上20日未満 ※4日までは対象外 |
1人あたり、25万円 |
以降、20日ごと | 1人あたり、15万円加算 ※1人あたり、上限100万円 |
※1事業所につき、20人分まで。
たとえば、3人の対象者がいて、それぞれの休暇取得日数が次のとおりだとします。
Aさん(10日の休暇を取得) | ⇒20日未満なので「25万円」 |
Bさん(15日の休暇を取得) | ⇒20日未満なので「25万円」 |
Cさん(30日の休暇を取得) | ⇒20日以上、40日未満なので、25万円+15万円=「40万円」 |
この場合、助成金として申請できる合計金額は「90万円」となります。1人あたり上限100万円で20人分までなので、1事業所につき最大2000万円までということですね。
支給申請の方法(申請期限は2021年5月末)
申請の仕方は、申請書類(様式は2パターン)を厚生労働省の該当ページからダウンロードし、必要事項を記載。添付資料とあわせてそれらを、各都道府県労働局雇用環境・均等部(室)宛に提出します。
1回にまとめて申請してもいいですし、複数回に分けてもよいとされています。複数回に分ける場合、休暇日数は通算します。たとえば1回目の申請で、20日未満分の「25万円」を受給したのであれば、2回目以降の申請では「15万円の加算分」のみです。
申請期限は、今のところ2021年5月末ですが、今後の状況によっては延長される可能性もあるでしょう。
申請のために必要な書類一覧
申請のために作成する書類は2点。そのほか、添付資料(出勤簿など)が複数必要です。
申請書類(1) 支給申請書
支給申請書の1枚目は、会社情報や口座番号を記載する基本的なものです。2枚目が特徴的で、労働者ごとに申請額などを記載します。
※支給申請書は、「雇用保険被保険者用」と「雇用保険被保険者“以外”用」に分かれているので、アルバイトやパートさんなど、被保険者“以外”の申請については、別の用紙に分けて書きます。
申請書類(2) 母性健康管理指導事項確認書
この書類は、休暇を取得した妊娠中の女性に署名してもらう必要のあるものです。必ずご本人の署名をもらわなければなりません。対象者が複数名の場合は、それぞれから1枚ずつ取得します。ただし、「母性健康管理指導事項連絡カード」があれば、こちらは不要です。
そのほか添付書類
添付書類は7種類。
- 対象労働者が有給休暇を取得したこと、取得日数が確認できる書類(出勤簿など)
- 6割以上の賃金が支払われる有給休暇の制度となっていることが確認できる書類(制度の周知資料、就業規則など)
- 本有給休暇について、社内向けに周知したことが確認できる書類(制度の周知資料など)
- 2の賃金が、実際に支払われたことが確認できる書類(賃金台帳など)
- 対象労働者の所定労働日が確認できる書類(労働条件通知書など)
- 対象事業主に雇用されており、本有給休暇取得の前に1日以上勤務していることが確認できる書類(出勤簿など)
- 振込口座が確認できる書類(通帳・キャッシュカードのコピーなど)
さいごに
妊娠中の女性のみを対象とした助成金制度なので、自社内に該当者が必ずいるとも限りませんが、もしコロナ禍中の妊娠で、不安になっている方がいれば、早急に休暇制度をとりまとめて、本助成金を活用してはどうでしょうか。こんな時代だからこそ、安心して妊娠・出産し、出産後も継続して働き続けられる社会であれば、と思います。
※上記は、2021年1月25日現在における情報です。内容が更新される可能性もありますので、最新情報については、厚生労働省HP内にある該当ページよりご確認ください。
新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金をご活用ください
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。