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パワハラ防止法の施行で、「SOGIハラ(ソジハラ)」対策が企業の義務に――「SOGIハラ」って何?企業の取り組み事例や裁判例とともに紹介

投稿日:2020年8月12日

2020年6月、大企業からスタートした「改正労働施策総合推進法」(通称/パワハラ防止法)。これを機に、「ハラスメント」に関する研修を受講したという人も多いのではないでしょうか。今、パワハラのみならず、セクハラ・マタハラ・モラハラ・カスハラなど、さまざまな「ハラスメント」が言語化され、改めて考えさせられる機会が増えています。本記事でテーマとする「SOGI(ソジ)ハラ」もそのひとつ。パワハラ防止法で企業に対策を講じることが義務化された「SOGIハラ」。SOGIハラとは何なのか?どのような対策や留意が必要なのかについて紹介します。

「SOGI」とは、異性愛の人なども含めすべての人が持っている属性

「SOGI」は、セクシャルマイノリティ問題に関連して使われる表現です。一般的には、「LGBT」を用いることが多いですが、最近は「SOGI」という表現を使おうとする動きが出てきています。「LGBT」は、L(レズビアン:同性を好きになる女性)、G(ゲイ:同性を好きになる男性)、B(バイセクシュアル:両性を好きになる方)、T(トランスジェンダー:生物学的・身体的な性、出生時の戸籍上の性と性自認が一致しない方)の頭文字をとったもので、性的マイノリティを指す言葉として使われています。

一方で、SOGIは、「Sexual orientation and gender identity」(性的指向および性自認)の頭文字から生まれた言葉。「性的指向」とは、「恋愛や性愛がいずれの性別を対象とするか」、その方向性のことを意味します。「性自認」とは、「自己の性別についての認識」です。端的に表現すると、「性的指向」は「好きになる性」。「性自認」は、「心の性」です。SOGIは、「男性を好きになる女性」、「女性を好きになる女性」など、性的マジョリティもマイノリティも、すべての人を含めた表現なのです。

では、「SOGIハラ」とは、どのようなハラスメントのことをいうのでしょうか。

「SOGIハラ」とは?

「SOGIハラ」は、性的指向や性自認を理由に、差別的な言動・嫌がらせを行うことをいいます。具体的には、SOGIを理由に以下のようなハラスメントを行うと、SOGIハラに該当してしまいます。

(1)差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
(2)いじめ・無視・暴力
(3)望まない性別での生活強要
(4)不当な異動・解雇
(5)SOGIについて、許可なく公表(アウティング)

たとえば、面白半分で「ホモ」といった侮蔑的な言葉で呼びかけたり、男性と自認している人に対して、戸籍上の性別が女性であることから、女性の服装を強要したり…。SOGIを理由に望まない配置転換を行ったり、本人がカミングアウトしていないにも関わらず、知っている職場の同僚やマネージャーが暴露(アウティング)してしまったりなどです。

とくに、(4)のSOGIを理由とした不当な解雇については、解雇無効になる可能性があります。労働契約法第16条の中で、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と明記されているからです。

「SOGIハラ」がトラブルになったケース(過去の裁判例)

実際に、SOGIに起因する職場トラブルを理由に、裁判へと発展したケースもあります。

SOGIに起因して解雇→裁判で解雇無効へ

事案のサマリー

Aさん(戸籍上の男性)は1997年に採用され、本社調査部で勤務していたが、2002年に制作部へと異動の内示が出た。Aさんは配転承諾の条件として、「自分を女性として認めて欲しい。女性の服装で勤務したい。女性トイレを使用したい。女性更衣室を使いたい」という旨を申し出たが、会社には認められなかった。Aさんは女性の服装・化粧をして出勤したが、会社はこれを禁止する服務命令を発し、業務命令違反を理由にAさんを懲戒解雇とした。Aさんはこれを不服として、解雇無効の仮処分を求めた。なお、Aさんは2001年7月時点で、家裁で戸籍名を女性名に変更している。

裁判所の判断

Aさんの行動が、懲戒解雇に相当するまでの重大かつ悪質な企業秩序違反と認めることはできないとし、解雇を無効とする判決を出した。

この判決では、解雇を無効とした判断理由として、「周囲の社員がAさんに対して抱いた違和感は、時間の経過とともに緩和する余地が十分にあった」と指摘されています。また、「この違和感が業務遂行上において、大きな支障をきたすものではない」ことにも言及されています。つまり、会社側がAさんに性的指向や性自認に対して、もう少し配慮をしてもよかったんじゃないか、ということです。

利用トイレの制限→賠償命令へ

事案のサマリー

戸籍上は男性だが女性として勤務する性同一性障害のBさんに対し、人事院は女性用トイレの使用を禁止。これに対し、Bさんは違法だとして提訴。処遇改善と損害賠償を求めた。

裁判所の判断

女性用トイレの使用制限を、「自認する性別に即した社会生活を送る」という重要な法的利益を制限していると指摘。使用禁止したことを違法だとし、132万円の賠償を命じた。

これは、経済産業省で起こった事案です。日本のトランスジェンダーがトイレ利用で困難を抱えているという事実にも配慮したうえで、こうした判断がなされました。ちなみに、日本の大手トイレメーカーTOTOでは、こうした性的マイノリティにも配慮したパブリックトイレを企画・製造し、販売を開始しています。少し広めの男女共用個室トイレなのだそうです。徐々にこうした動きも広がってくるのかもしれません。

「SOGIハラ」を防ぐために“企業”ができること

上記のような裁判例から分かるように、社会の潮流としても、企業にSOGIへの配慮は求められています。では、どのような対策を講じていけばいいのでしょうか。実際に企業で取り組まれている事例をもとに、いくつか具体的な対策を挙げます。

全社行動指針の改定

企業行動憲章の改定。条文を追加し、性的指向・性自認にもとづく差別をしないということを全社に示した。

就業規則の変更

就業規則に性的指向・性自認に関する差別禁止を明記。推進体制として、人事労務担当部署の担当者1人をあてている。

無記名アンケートで定点観測

毎年、全従業員を対象にダイバーシティ推進度を測ることを目的とした無記名のアンケートを実施。LGBTに限らず、ダイバーシティ全般の推進度を定点観測。アンケートの回答をもとに制度改善を行っている。

外部講師による管理職向け研修を実施

管理職全員を対象に、外部講師を招いた研修を実施。当事者が各種制度を利用する際は管理職に相談がある可能性が高いことから、管理職として気を付けなければならない言動や、カミングアウトがあった際の対応などについての研修を実施した。

専用の相談窓口を設置

ハラスメント窓口とは別に、性的指向・性自認に関する相談窓口を新設。相談窓口の電話番号は担当者への直通番号となっており、担当者の性別に希望がある場合に備えて男女3名体制で対応している

エントリーシートの性別欄廃止

採用ポリシーにおいて、差別を行わないことを明記。自社のエントリーシートには性別欄を設けず、LGBTフレンドリー企業であることをアピールしている。

同性婚・事実婚も法律婚と同等の扱いに

同性および事実婚のパートナーを、法律婚の夫婦と同等と見なす制度をスタート。社内規則や福利厚生制度の適用について、法律婚の男女とほぼ同様に変更した。

トイレの利用

トイレの利用については、使いたい性別のトイレを使ってよいことにしており、社員もそうした方針であることを理解している。顧客や取引先もそうした方針を知っているが、苦言や苦情等が出たことは一度もない。

制服の男女統一

女性用制服のスカートを廃止。シャツやネクタイのデザインを男女共通したものへと変更した

このように、さまざまな企業がSOGIに配慮した取り組みを進めています。

「SOGIハラ」を防ぐために“個人”ができること

会社全体の取り組みも大事ですが、やはり取り巻く人たちの心構えも、SOGIハラをなくしていくためには重要な要素でしょう。社内で一緒に働く性的マイノリティに対して、私たちはどのように接していけばよいのでしょうか。NHKの番組で評論家の荻上チキさんが、参考になる発言をされていたので紹介します。

大前提として、自分自身がSOGIハラに加担しないこと。もし、人から「SOGIハラなんじゃないか」と指摘されたら、自分の行動や考えを振り返って、改めることが重要だと荻上さんは説明しています。

加えて、「SOGIハラかも」という場面に遭遇した場合、指摘できそうであれば指摘するのも一つの手ですが、場の雰囲気から指摘しづらいことも多いです。そういう場合は、話題をそれとなく変えたり、場の雰囲気を変えたりと、スイッチャーの役割を担うことも有効だといいます。

さらに、後でそっと当事者に対して「さっきの嫌じゃなかった?」と一声かけることで、シェルター(避難所)としての役割を果たせるとのこと。「みんなが敵ではないよ」と当事者に伝えることで、心理的な安心感につなげることができます。

「スイッチャー役になる」「自分がシェルターになる」の2つは、比較的簡単にできます。より多くの人たちがこの役割を担えば、個人一人ひとりの心構えから職場全体の雰囲気を変えることができるのではないかと思います。

おわりに

以上が、「SOGIハラ」と「SOGIハラを防ぐための取り組み」についてでした。私自身、社会人になってから15年以上になりますが、LGBTの方と一緒に仕事をする機会が何回かありました。たいていは、飲み会などでカミングアウトされて、「そうなの !?」 となるのですが、仕事にその話を持ち込むことはありません。周囲もそうでした。SOGIと仕事の成果はまったく別物ですね。それは、一緒に働いたことのあるLGBTの仲間の仕事ぶりを振り返っても、はっきり断言できます。

それと、このテーマで第一想起する人物が、やはり台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏ではないでしょうか。天才プログラマーであるタン氏は、巧みなデジタル戦術で台湾のコロナを抑え込むことに成功したと、高く評価されています。一方で、自身がトランスジェンダーであることも明かしています。彼のような才能あふれる人が、当たり前に評価され、受け入れられる社会は成熟しているのだろうと思います。

翻って日本はどうでしょうか。「ダイバーシティ&インクルージョン(受容と活用)」といった言葉も飛び交うようになりましたが、職場の多様性は海外と比較して低いままです。同調圧力が強くて、マジョリティ以外が息苦しさを感じる、あるいは息を潜めていることも多いですね。理想は、さまざまな属性の人たちが活き活きと働ける職場です。この理想に向かって、会社や個人がまた一歩前進するべき時なのかもしれません。

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