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大副業時代の到来!?「副業・兼業」を容認する企業が押さえておくべきポイントとは?

投稿日:2020年9月7日

近年、副業・兼業を認める企業が増えています。株式会社リクルートキャリアが実施した調査によると、兼業・副業について認めている企業は30%を超え、引き続き増加傾向(参考)。こうした背景をふまえ、法規制を見直す議論も始まっています。2018年には、厚労省が作成している「モデル就業規則」から、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」の一文が削除されました。本記事では、副業「禁止」から「容認」へと舵を切りたいと考える企業に向けて、社員の労務管理で注意すべきポイントについて紹介します。

【大前提】副業の形態が、「雇用契約」か否か?

大前提として、副業にはさまざまな形態があります。他社と雇用契約を結び、正社員や、アルバイト・パート・派遣として働く形態。あるいは、他社と業務委託契約を結び、フリーランスとして働く形態。加えて、アドバイザーとして他社の会社役員に参画するケースや、独立・起業して、自身の新しい会社で代表を務める形態などがあります。どのケースも企業から見ると、自社のメンバーが他社で働くという意味において、副業に該当します。

上記のうち「雇用契約以外」の形態については、労務管理上、そこまで複雑な対応は必要ありません。自社業務への影響度合い、離職リスク、情報漏洩リスク等々について問題がなければ、副業を容認することは、社員の満足度向上やスキルアップに繋がるという点でメリットがあるでしょう。そもそも、業務時間外については、企業が労働者に対して何らかの指示・命令をすることは許されていません。業務時間以外の時間をどう使おうと、それは労働者の自由だからです。企業が副業を一律禁止することは、法的には無効という見方もあります。ですから本来、副業は認められるべきだと思います。

さて、難しいのは副業の形態が「雇用契約」の場合です。自社の社員が、副業先と「雇用契約」を結んで働く場合、いくつか注意すべきポイントがあります。

【時間】副業の労働時間も把握は必要?

自社の社員が副業先でも「雇用」されて働く場合は、各社の労働時間を通算して、労基法上の上限時間を超えないように管理しなければなりません。この通算ルールは、昭和時代に制定されたものですが、これからも継続されることになりました。理由は、長時間労働による健康被害を防ぐためです。

労働基準法 第三十八条

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」

自社と副業先の労働時間を足して、上限時間を超えないように管理するためには、副業先の労働時間を把握する必要があります。厚労省が提示する「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、社員に副業を申請・届出させたうえで、副業先の労働時間を自己申告させることが望ましいとされています。

ですから、企業の対応としては、副業の労働時間申請フローをつくり、副業先での労働時間も含めて、法律で定められている上限時間を超えないように、管理しなければなりません。

【賃金】割増賃金はどう計算する?

労基法では、「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えて労働させる場合、「1.25倍」以上の割増賃金(残業代)を支払わなければならないと決められています。休日出勤の場合は、「1.35倍」以上、時間外労働が月60時間を超えた場合は「1.5倍」以上など、いくつかの割増賃金ルールがあります。

これらの割増賃金についても、労働時間を副業先と通算したうえで計算しなければなりません。たとえば、早朝3時間だけコンビニでアルバイトをしてから、出社して8時間の労働をする社員がいたとします。どちらかの企業が、1日8時間を超える3時間分の給与に対して、1.25倍の割増賃金で支払わないといけないのが基本ルールです。

この場合、どちらの企業が割増賃金を支払うのか、気になるところです。原則は、後に雇用契約を結んだ企業が、割増分を支払うことになっています。つまり、A社に5年前から勤務している社員が、B社で副業アルバイトを始める場合、B社が割増分を支払うというルールです。

【保険】社会保険への加入はどうなる?

雇用保険

同時に複数の企業で雇用される場合の雇用保険の加入については、「その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者になる」とされています。つまり、その労働者に対して、より多くの給料を払っている企業が、雇用保険に加入することになります。ただし、いずれの企業でも、労働時間が加入条件に満たない場合は、雇用保険に加入できません。

健康保険/厚生年金

同時に複数の企業で雇用される場合の健康保険、厚生年金については、いずれの企業でも加入条件を満たす場合、労働者本人がいずれかを選ぶことができます。選択された年金事務所・医療保険者が、各事業所の報酬月額を合算し、標準報酬月額を算定し、保険料を決定します。そのうえで、各事業者は被保険者に支払う報酬額から按分した保険料を、選択した年金事務所・医療保険者に納付します。

労災保険

労災は個人が加入するものではなく、社員を雇用する企業が加入するものです。副業と絡めてひとつ留意しておく点があるとしたら、通勤災害でしょう。通勤災害とは、通勤中の事故などに対して補償を行うものですが、本業であるA社から、副業先のB社へと移動する場合に起きた事故についても補償をします。この場合、移動「先」の会社が補償をする取り決めになっています。

【解雇】副業を理由に、解雇はできる?

副業を理由とした解雇について、これまで裁判になったケースがいくつかあります。解雇が無効だと判断されたケースもあれば、有効だと判断されたケースもあります。判断のポイントは、副業により「本業への労務の提供が不能・不完全になった」「企業秘密が漏洩した」「経営秩序を乱した」といったことが認められるかどうかです。

たとえば、以下の例では年に1~2回程度の副業アルバイトでは、本業への労務提供が不完全になったとはいえないとし、解雇は無効になりました。

一方で、以下の例では競業他社の取締役に就任したことで企業秩序を乱したとし、解雇が有効とされました。

解雇だけではなく、副業を理由に不合理な配置転換や降格など、不利益な取扱いをした場合、訴訟に発展すれば、その対応が無効となる可能性もあります。この点は、あらかじめ理解しておくとよいでしょう。

【税金】年末調整か確定申告か?

最後に税金についてです。副業を行わない場合、会社が年末調整を行い、最終的な所得税の過不足を調整します。しかし、副業による収入が「年間20万円」を超える場合は、副業分の税金も支払う必要があるため、企業で年末調整を行うことはできません。確定申告に必要な源泉徴収票などを渡し、個人で確定申告をするよう促してください。これについては、「雇用契約」での副業に限らず、「年間20万円以上」の副業収入を得るすべての人が対象です。

なお、確定申告をうっかり提出しわすれた場合は、申告漏れになるので注意が必要です。以前、とある人気お笑い芸人が、確定申告を行わなかったことで、国税局から申告漏れを指摘されました。納税は国民の三大義務のひとつ。軽んじていると、後々大変なことになるので、そういったアナウンスをすることも重要です。

【事例】副業・兼業を容認する企業の取り組み

サイボウズ株式会社

サイボウズといえば、「100人100通り」の人事制度が有名ですが、同社は就業規則に、「正社員は、会社の資産を毀損する可能性のある場合を除き、副業を行うことができる」と明記したうえで、副業を解禁しています。この制度を利用して、さまざまな社員が副業を行っているそうです。その種類は、カレー屋さん、小説の執筆、動画配信、不動産賃貸、カメラマン、講演活動、経営コンサルなど多岐に渡ります。

副業の管理については、「他企業で雇用されている場合」と、「サイボウズの資産(業務の時間や物)」を使う場合のみ事前に申請するスタイルをとっているそうです。この2つに該当しない場合は、基本的には自由に行えます。ただし、会社の資産(モノ、カネ、時間、情報、ブランドなど)を毀損する副業については、中止を要請することもあるとのこと。また、副業が本業に悪影響をもたらした場合は、評価にも影響するとしています。

三菱地所株式会社

三菱地所では、さまざまな経験を通じて社員一人ひとりがポテンシャルを最大化し、本業へも活かしていくことを目的として、2020年1月から許可制の副業制度を整備しています。社員の成長やスキルアップにつながるチャレンジを会社として後押しするほか、副業を通じて得られた知見・人脈を本業に還元してもらう狙いです。副業の条件については、「自社と利益相反関係にある事業ではないこと」「1カ月あたりの業務時間は50時間まで」としています。

株式会社ミクシィ

ミクシィは2009年から副業制度を設けています。この制度を利用し、アプリの設計やマンガの翻訳、ジムのインストラクターなど、さまざまな副業事例が生まれているといいます。「副業によって視野が広くなった」という声もあがっているとのことです。

運用については、副業申請を上長に提出し、承諾をもらえると自由に堂々と副業ができる仕組みです。ただし、本業に支障をきたさないなど、常識の範囲内で行うことが条件となっています。

おわりに

個人にとって副業・兼業は、自分が「どのようなキャリアを築きたいのか」「どのような生活を送りたいのか」といった、個々のビジョンを実現するための手段だと思います。「今できる仕事から少し仕事の幅を広げたい」「新しいスキルを身につけたい」「生活の足しになる収入をもう少し得たい」などの想いを叶えるものです。

これからビジネスシーンにおいて、ますます「個」が立ってきます。ただただ、会社に決められたレールを歩むのではなく、一人ひとりが自分自身でキャリアを描き、描くキャリアの方向性に近づくための仕事を選ぶようになります。

国もこうした動きを後押しすべく、副業・兼業を促進しています。しかし、今年の9月に導入されたガイドラインでは、企業の労務管理を複雑にしている「労働時間の通算ルール」も「割増賃金の支払いルール」も、大きく見直されることはありませんでした。働きすぎによって、健康被害が生じることに懸念があるからです。

社員の健康被害も気にしながら、副業・兼業も認めていく。企業にとっては、難しい舵取りが求められます。しかし、多様な働き方のできる土壌が耕されることは、とても大事なこと。そのために、企業は従来の「当たり前」の働き方を見直す局面に来ているのだと思います。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

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