今月のおすすめ記事 育休 読みもの(人事・労務向け記事)

従業員が不妊治療を受けながら働き続けられる職場をつくりましょう!

投稿日:2023年8月1日

近年、晩婚化などを背景に不妊治療を受ける夫婦は増加しており、働きながら不妊治療を受ける人も増加傾向にあると考えられます。

ところが、不妊治療と仕事との両立ができないケースが少なくないようで、離職に至れば企業にとって大きな損失ですし、従業員のエンゲージメントや自社のイメージ低下にもつながりかねません。

この記事では、不妊治療と仕事の両立支援の重要性を理解した上で、企業としてできること、両立支援に積極的な企業に対する国などのサポート、両立支援に向けた制度などの導入事例を紹介しますので、自社における取組の一助として頂ければ幸いです。

不妊治療と仕事の両立の現状と重要性

不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の割合は22.7%(約4.4組に1組:2021年)とかなりの数にのぼります。

一方、2017年度の厚生労働省調査によれば、不妊治療と仕事との両立ができない、できなかった従業員は全体の35%を占め、不妊治療と仕事との両立が難しい現状がうかがえます。その理由としては「心身双方の負担」「通院回数が多い」「不妊治療を受け入れる職場風土でない」が多いようです。

以上をふまえると、企業としては柔軟な働き方の整備、休暇制度の充実、不妊治療への理解の醸成といった対応を進めることが不妊治療と仕事との両立支援に重要なことが分かります。

不妊治療を受ける従業員の両立支援のために企業ができること

両立支援のために、企業としては以下の流れ・内容で取り組むことができるのではないでしょうか。

(1)従業員の不妊治療を会社がサポートする方針の明確化及び自社の実態把握

(2)両立支援のための制度設計(例)
・半日単位・時間単位年休
・不妊治療を目的とする休暇・休職制度
・失効年休の積立制度の不妊治療への適用
・短時間勤務制度、フレックスタイム制
・不妊治療に対する助成金や貸付金
・テレワーク

(3)両立支援の環境づくり
・方針・制度などの職場内周知、ハラスメント防止対策
・社内相談窓口などの設置

(4)取組実績の確認と見直し

不妊治療と仕事の両立支援に取り組む企業への助成金

中小企業事業主(労災保険適用事業主であることなど要件あり)向けに2つの助成金が用意されています。なお、「中小企業事業主」の定義は以下の表の通りです。

◾️中小企業事業主の定義

業種 資本金 常時使用する労働者
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

※医師が勤務する病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院は常時使用する労働者数が300人以下

(1)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)

働き方改革のための時間外労働の削減、休暇取得促進などに取り組む中小企業を支援するための助成金で、不妊治療のための休暇の導入によっても支給されます。

①要件
労務管理担当者への研修、就業規則・労使協定等の作成・変更、人材確保の取り組み、労務管理用ソフトウェア等の導入、労働能率向上のための設備導入など、7項目の取り組みのうちいずれか1つ以上を実施

②成果目標(1つ以上を選択)
・36協定の時間外・休日労働時間数(月60時間超)を減らす。
・年次有給休暇の計画的付与制度を新たに導入
・時間単位の年次有給休暇制度を新たに導入した上で
交付要綱で規定する特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、不妊治療のための休暇など)のいずれか1つ以上を新たに導入

※上記に加えて、賃金引上げの目標も加えることが可能。

③助成額
成果目標の達成状況に応じて、助成対象となる取り組みに要した費用の一部が助成されます。
(最大730万円)

(2)両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)

不妊治療と仕事との両立のための職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な休暇制度や両立支援制度を労働者に利用させた中小企業のための助成金です。従業員が休暇制度・両立支援制度を利用した場合に活用できます。

①支給対象
以下のうち1つ以上の制度を導入し、従業員に利用させた中小企業事業主
不妊治療のための休暇制度(多目的・特定目的とも可)、所定外労働制限制度、 時差出勤制度、短時間勤務制度、フレックスタイム制、テレワーク

②支給までにしなければならないこと
企業トップの方針の周知、社内調査、就業規則等の規定・周知、両立支援担当者の選任、労働者との面談・「不妊治療両立支援プラン」の策定

支給額(いずれも1事業主につき1回支給)
①最初の労働者が休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用⇒30万円
②①を受給し、労働者が不妊治療休暇を20日以上連続して取得⇒30万円

不妊治療と仕事の両立支援に取り組む企業の認定制度

次世代育成支援対策推進法に基づき「くるみん」等の認定を受けた企業が、不妊治療と仕事との両立にも積極的に取り組み、一定の認定基準を満たした場合に、「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」「トライくるみんプラス」として認定されます。(2022年4月より)認定された場合は厚生労働省HPなどに企業名が公開されるほか、自社HPなどで「くるみんプラス」マークなどを表示できるため、両立支援への積極的な取り組みがアピールできます。

不妊治療との両立に資する休暇制度や勤務に関する制度を設けて、両立支援に関する企業トップの方針や制度の周知、従業員の理解促進の取り組み、両立支援担当者の選任と従業員への周知を行うことが認定の要件となります。

また、「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」認定を受けた中小企業(常時雇用する従業員300人以下)は、支給要件を満たすことで上限50万円の経費助成「くるみん助成金」を受けられます。

不妊治療と仕事の両立支援の取り組みの主な事例

「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」(厚生労働省)には20社の取り組み事例が紹介されており、その中で取り組みの多いものを紹介します。なお、この20社の中には従業員数が300人以下の企業が6社あり、中小規模の企業においても積極的な取り組みが見られました。

(1)休暇制度
不妊治療に特化した休暇、不妊治療に特化しないが不妊治療にも利用できる休暇

(2)失効年休積立制度
失効した年次有給休暇を一定数積み立てて、不妊治療にも利用できるようにしている。

(3)休職制度
不妊治療に特化した休職

(4)不妊治療と両立しやすい働き方が可能な制度
フレックスタイム、テレワーク

(5)不妊治療に要する費用の助成制度
費用助成の制度を設ける企業が多いが、貸付制度を設ける企業もある。

まとめ

不妊治療を受ける夫婦が増えていることから、仕事との両立を求める従業員が少なくないと考えられます。
まずは、自社での積極的な支援の方針を打ち出すとともに、現状把握、効果的な対策立案を行って実行に移すことが重要です。この取り組みにより自社のイメージアップや従業員のエンゲージメントを高めることにもつながりますし、中小企業であれば国から助成金を受けられます。
制度設計にあたっては社会保険労務士などの専門家にも相談しながら進めてみてはいかがでしょうか。

-今月のおすすめ記事, 育休, 読みもの(人事・労務向け記事)
-

関連記事

【2020年6月施行】パワハラ防止法、企業に義務化される内容や罰則を社労士が解説!

2019年5月に、「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」が成立しました。職場内のパワハラを防止することが、企業にとって義務となります。最近、某芸能事務所の社長が、社員や所属タレントに対して高圧的な態 …

建設業の「墜落転落災害防止対策」強化について徹底解説

建設業では、足場を点検せず手すりが未設置の状態で作業を進めた結果、死亡災害が発生しているケースもみられることから、喫緊の課題として認識されています。 そのため、厚労省ではマニュアル見直しを提案し、木造 …

知らないとまずい!特別条項付き36協定の上限時間を徹底解説!

時間外や休日の労働について取り決めがされている36協定。その36協定で定められる「特別条項」の詳細な説明ができる人は意外と少ないもの。 実際、平成25年度に厚生労働省が行った調査では労働基準法の違反企 …

社会保険の書類保管にお悩みの方必見!書類の電子化を検討ください

企業の人事担当者のみなさん、社会保険関係の書類を電子化しませんか? 社会保険に関係する書類は、事業が継続していくにつれて、増える一方です。増えた書類の保管にはスペースが取られるため、電子化して保存する …

【社労士が解説】2021年4月施行「改正高年齢者雇用安定法(70歳就業法)」の具体的な中身とは?企業はどう取り組むべき?

2021年4月1日より「改正高年齢者雇用安定法」が施行されました。「70歳就業法」とも呼ばれるこの法改正、どういった中身なのでしょうか。本記事では、法改正の中身と企業の取り組むべきアクションについて解 …