社会保険労務士法人FORROU(フォロー) ロゴ

【2020年4月施行】「女性活躍推進法改正」で何が変わる?法改正のポイントと「一般事業主行動計画」の立て方を社労士が解説!

投稿日:2020年5月18日

国連の定めた持続可能な開発目標(SDGs)の中に、「ジェンダー平等を実現しよう」という目標が盛り込まれ、女性の活躍がESG投資の指標のひとつにもなっている昨今。企業における女性の活躍は、今まで以上に重要性が増しています。こうした世界的な動きを背景に、2019年に「女性活躍推進法」が改正され、2020年度より徐々に施行されています。

本記事では、「女性活躍推進法」の法改正のポイントと、「一般事業主行動計画」の立て方、新設された「プラチナえるぼし」について紹介します。

なお、「えるぼし」マークは、「くるみん」マークと混同されがちですが、根拠となる法律が異なります。「くるみん」は、子育て支援に重点を置いた政策で、根拠となる法律は、「次世代育成支援対策推進法」。一方「えるぼし」は、女性の活躍支援に重点を置いた政策で、根拠となる法律は「女性活躍推進法」です。今回のテーマは、「女性活躍推進法」。安倍首相が提唱する「すべての女性が輝く社会づくり」の根幹をなす法律についてです。

「女性活躍推進法」とは?

正式名称、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」は、2015年に制定された、10年の時限立法です。主管は内閣府。目的は、その名の通りですが、ビジネスシーンにおいて女性の個性・能力が十分に発揮できる社会を実現することです。実現に向けて次の2つを推進していく考えが示されています。

  • (1)女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供(機会の提供)
  • (2)職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備(環境の整備)

少し補足すると、1つ目は採用や昇給・昇格、配置などにおいて、女性と男性を区別せずフェアにしましょう、という方針です。一方、2つ目は、「男性は仕事、女性は家庭」という日本社会に深く根ざした考え方を前提に、家庭に比重を置きがちな女性も働きやすい環境を整備しようということです。つまり、長時間労働を是正したり、辞令一枚での全国転勤を改めたりと、プライベートに配慮した制度設計を行いましょうと言っています。

ただ、この3つの基本方針を示しただけだと、大部分の企業は「ふーん」ぐらいで終わってしまうでしょう。そこで、国は各企業に「一般事業主行動計画」という、女性活躍推進に向けたアクションプランの策定を義務づけました。具体的には、以下の流れで行動計画を立て、労働局に計画を届出ることが義務化されています。

  • ▼自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
  • ▼状況把握、課題分析を踏まえ、 (a)計画期間、 (b)数値目標、 (c)取組内容、(d)取組の実施期間を盛り込んだ行動計画の策定、策定・変更した行動計画の非正社員を含めた全ての労働者への周知及び外部への公表
  • ▼行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出
  • ▼女性の活躍に関する情報の公表

つまりポイントは、「一般事業主行動計画」を立てることです。では、どのような行動計画を立てるとよいのでしょうか。中身を見てみましょう。

女性の活躍を推進するアクションプラン「一般事業主行動計画」とは?

とくに決まったフォーマットはありませんが、サンプルとして提示されている行動計画をもとに紹介します。以下のように、(a)計画期間、 (b)数値目標、 (c)取組内容、(d)取組の実施期間の4点を盛り込むよう意識しながら作成します。

たとえば、現状分析を行った結果、管理職の女性割合を高める必要性を感じたのなら、「管理職における女性比率30%以上」を目標に置き、そのためのアクションプランを策定します。以下の例では、「人事評価基準を見直す」「キャリア研修を行う」などが目標達成に向けた取り組み内容です。

このような計画を、「一般事業主行動計画」と呼んでいます。

一般事業主行動計画

優良企業に付与される「えるぼし認定」とは?

行動計画を策定・届出をした企業のうち、申請により、女性の活躍推進に積極的な企業は、「えるぼし」マークを取得することができます。「えるぼし」の取得条件は細かく決まっており、情報公開の頻度や女性の管理職比率、継続就業の度合い、採用の公平さなどが問われます。

えるぼしマーク

認定を取得できれば、ホームページや求人広告、名刺などに「えるぼしマーク」を使用することができ、企業のブランド力向上につなげることができます。また、公共調達において有利にもなるので、公的機関向けにビジネスを仕掛けたい企業にはおすすめです。

対象企業は?

あらゆる企業が女性の活躍推進に取り組む必要がありますが、行動計画の策定・届出については、会社規模に応じて区別されています。

常時雇用する労働者(雇用形態問わず、過去1年以上雇用・あるいは雇用見込みであること)の数が、
✓ 301人以上 → 計画の策定・届出が「義務づけられている(必ず行う)」
✓ 300人以下 → 計画の策定・届出は「努力義務(可能な限り行う)」

※2022年より、義務化ラインが「101人」に変更(後ほど紹介)

ここまでが、「女性活躍推進法」のあらましです。では、2020年にスタートする改正で、一体何が変わるのでしょうか。

2020年にスタートする 「4つ」の法改正の中身

大きな変更点は以下の4つです。従来よりも、ルールが強化されます。ひとつずつ中身を確認しましょう。

1.「機会提供」と「環境整備」いずれも計画に盛り込む(2020年4月スタート)

今回の改正で、「女性へのフェアな機会の提供を促進する取り組み」と、「ワークライフバランスの図りやすい環境整備を促進する取り組み」のいずれもについて、目標に盛り込むよう定められました。具体例も示されていて、たとえば以下のようなものが、それぞれのカテゴリーに該当します。

女性へのフェアな機会の提供を促進する取り組み

この改正にともない、たとえば「機会提供」のカテゴリーでしか目標を設定してこなかった企業は、「環境整備」においても新たな目標を設定しなければなりません。逆に、「環境整備」でしか目標を設定してこなかった企業は、「機会提供」にもメスを入れる必要があります。この法改正は、2020年4月から施行されているので、4月以降に提出する計画については、すべて上記を満たしていなければなりません。

2.「機会提供」と「環境整備」いずれも情報公表 (2020年6月スタート)

上記の法改正に付随しますが、情報公開についても、「機会提供」と「環境整備」両者のカテゴリーから、それぞれ1項目以上を選択して情報公開することになりました。具体的には、以下のような数値を公表します。

女性労働者に対する職業性格に関する機会の提供

3.特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設 (2020年6月スタート)

3つ目は「えるぼし認定」についてです。既存の3つの「えるぼし」のさらに上位に、「プラチナえるぼし」が創設されました。「プラチナえるぼし」を取得するためには、下記にある通り、行動計画の達成度合いや専任担当の有無、定められた指標(※)の達成、情報公開が求められます。

なお、「プラチナえるぼし」を取得すると、「一般事業主行動計画」の策定・届出が免除されるという大きなインセンティブがあります。厚生労働省から、「もう、この企業は大丈夫だ」と、お墨付きを得るイメージですね。

えるぼし段階表

※定められた指標:(1)採用 (2)継続就業 (3)労働時間等の働き方 (4)管理職比率 (5)多彩なキャリアコース の5つの項目について、それぞれ目標数値が設定されています。

参考:『えるぼし認定、プラチナえるぼし認定』(厚生労働省)

4. 「一般事業主行動計画」の策定義務の対象拡大 (2022年6月スタート)

4つ目の法改正のみ、施行が2年先の2022年6月となっています。法改正の中身は義務化対象企業の拡大です。先述の通り、これまで行動計画の策定・届出義務があるのは、常時雇用する労働者の人数が301人以上の場合のみでした。

しかし、今回の法改正で対象範囲が広がり、常時雇用する労働者が「101人以上」の事業主と改正されました。これにより、これまで義務ではなかった労働者数「101~300」人の企業も、新たにアクションプランを策定し、届出る必要があります。

これらが、法改正の4つのポイントです。

どう進める?「一般事業主行動計画」の策定の手順

対象企業の範囲が広がることで、準備に着手しようと考える企業も増えていると思います。ここからは、「一般事業主行動計画」の立て方について紹介します。

<STEP1>自社の状況・課題の把握

業種や職種、あるいは企業風土によって、課題は異なります。そのためまずは、現状分析から始めます。「男女の採用比率に偏りはないか」「平均勤続年数が男女で違いすぎないか」「平均残業が男女で違わないか」「管理職に占める女性の割合はどうか」などです。定量的な数値分析だけではなく、アンケート調査やインタビュー調査なども実施し、定性面からもアプローチすると、より実態把握が明確になるでしょう。

<STEP2>計画の策定、社内周知・公表

状況の分析が完了し、課題が明確になれば、それに対する打ち手を考えます。一般的なところだと、「女性のキャリアに関する研修を実施する」「採用方針を見直す」などでしょうか。打ち手については、何人かでブレストをしてみるといいかもしれません。打ち手が決まれば、計画の策定に進みます。

「一般事業主行動計画」をまとめるにあたっては、(a)計画期間、 (b)数値目標、 (c)取組内容、(d)取組の実施期間の4点を盛り込むこと。また、法改正のポイントでもある、「機会提供」と「環境整備」の2つのカテゴリーから盛り込むことに留意しましょう。

計画がまとまれば、社内に周知します。方法にはとくに決まりはないですが、「社内メール広報」「イントラネットへの掲示」「見やすい場所への掲示」などが一般的です。社内周知と同時に、社外へも公表します。公表の仕方は、自社ホームページへの掲載、あるいは厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」に掲載するなどです。

<STEP3>計画の届出

策定した計画は、管轄の都道府県労働局に届け出ましょう。持参・郵送・電子申請で受け付けています。

<STEP4>取組の実施、効果の測定

計画を立てて終わりではなく、定期的に数値目標の達成状況を確認し、改善しているかどうかチェックしましょう。よくあるPDCAをまわすということです。形だけの計画にならないよう、しっかりKPIを設けて、改善を継続していくことが肝要です。

参考:『一般事業主行動計画策定マニュアル』(厚生労働省)

女性の活躍を推進することで、何が変わる?

海外と比較したとき、日本の男女格差は、世界153カ国中、121位です。とくに、「経済」と「政治」において男女格差が大きいことが分かっています。下の図が日本の課題を視覚的に浮き彫りにしています。日本は、女性の活躍という観点において、「教育」では成功しているものの、「経済」や「政治」にそれを活かせていません。この現状は、「もったいない」の一言に尽きるのではないでしょうか。

『グローバル・ジェンダー・ギャップ レポート2020』(世界経済フォーラムの発表資料)

参考:『グローバル・ジェンダー・ギャップ レポート2020』(世界経済フォーラムの発表資料)

眠っている女性の力をもっと活用し、ビジネスシーンで役立てていけば、企業単体においても成長力を高めることにつながりますし、日本全体で見ても国際競争力を高めることにつながるはずです。今、女性の力を活用しきれていないことが課題であり、女性が活躍できる社会が実現した先にあるのは、経済の発展、そして女性が働きやすく、生きやすい社会なのだと思います。

まとめ

以上が、「女性活躍推進法改正」についてでした。冒頭に書いた通り、日本のビジネスシーンでの男女平等に向けた動きは、昭和60年に始まっています。平成の30年をへて、確かに変化はしてきました。しかし、「変化が緩慢すぎやしないか」というのか個人的な印象です。ここでも「失われた30年」があるのではないでしょうか。令和に入り、もう待ったなし。今、教育課程にある娘たちのためにも、変化を加速するときなのだと思います。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

関連記事

健康保険証の直接交付が可能に!実務上のポイントご紹介

2021年10月1日から健康保険被保険者証が直接従業員(被保険者に該当する場合は役員も含む)へ交付することができるようになります。旧来は会社に送付され、会社の人事労務担当者から本人へ渡されていました。 …

公金受取口座とは?制度の概要、登録方法、社会保険の給付金受け取りについて解説

デジタル庁が主導で行う取り組み「公金受取口座登録制度」についてご存知でしょうか。 2022年10月からはこの制度を利用して、傷病手当金や出産手当金といった給付金の受け取りが可能となっています。 この記 …

有給休暇義務化の法改正後のポイントや罰則について解説

【社労士が解説】有給休暇義務化、罰則や法改正のポイントついて徹底解説!

2019年4月から施行される「有給休暇5日取得義務化」。政府が推進する働き方改革の一環で、労働基準法の一部が改正されたことにより始まります。この改正により、「1年のうち5日は必ず有給休暇を取得させなけ …

【図解で徹底解説】2026年度の障害者法定雇用率2.7%見直しで思わぬ支払い義務が発生?

2023年1月18日に開かれた「労働政策審議会障害者雇用分科会」より、2026年までに障害者法定雇用率の段階的な引き上げが発表されました。 2023年時点では43.5人未満では雇用義務なしですが、20 …

【2021年1月施行】 育児・介護休業法改正のあらましを解説、「時間単位」で取得できるようになるってどういうこと?

企業で働く人たちの仕事と育児・介護の両立を支援するために設けられた「育児・介護休業法」。正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」で、前身である育児休業法は199 …