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【社労士が解説】2021年4月施行「改正高年齢者雇用安定法(70歳就業法)」の具体的な中身とは?企業はどう取り組むべき?

投稿日:2021年4月16日

2021年4月1日より「改正高年齢者雇用安定法」が施行されました。「70歳就業法」とも呼ばれるこの法改正、どういった中身なのでしょうか。本記事では、法改正の中身と企業の取り組むべきアクションについて解説します。

「高年齢者雇用安定法」とは?

「高年齢者雇用安定法」とは、高齢化が深刻になる中、年齢問わず働ける世の中を目指して制定された法律です。前身となる法律は、1971年(昭和46年)にスタートしており、すでに50年もの歴史を持ちます。目的は、高齢者の雇用機会の確保や再就職の促進など。含まれる代表的なルールに、「60歳未満の定年禁止」などがあります。今回は、この法律にルール変更がありました。

2021年4月スタート「改正高年齢者雇用安定法」の中身

本改正において焦点となるのは、「60歳以上における就業の在り方」です。改正の背景には、年金の支給開始年齢が徐々に後ろ倒しになっていることを踏まえ、「70歳まで働き続けられる社会に変えていかねばならない」という課題があります。

「高年齢者雇用安定法」において、現行のルールでは次のように定められています。

義務

(1)60歳未満の定年は禁止
(2)65歳まで雇用確保する措置をとる
「定年制廃止」「定年を65歳まで引き上げ」「再雇用など継続雇用制度の導入」のいずれか

この2つが「義務」です。たとえば(1)だと、55歳を定年とする制度は法律に反します。あるいは(2)だと、65歳まで働き続けられる制度を講じていなければ、同様に法律に反することになります。ちなみに(2)には、3種類の選択肢が用意されていますが、現状は「再雇用制度」を採用している企業が大半です。

▽ ▽ ▽

この現行に加えて、2021年4月からは次のような取り組みをすることが、企業の「努力義務」となりました。

努力義務

(1)定年制の廃止
「定年制度」をやめ、個人の状況に合わせて退職のタイミングを判断する方法

(2)定年を70歳まで引き上げ
「定年制度」は残し、70歳まで定年を引き上げる方法

(3)70歳まで継続雇用制度の導入
従来、65歳までとしてきた継続雇用の措置を70歳に後ろ倒す方法

(4)70歳まで継続的に「業務委託契約」を締結する制度の導入
雇用契約から業務委託契約に切り替えて、70歳まで働ける環境をつくる方法

(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
社会貢献活動に70歳まで従事してもらう方法

【イメージ図】黄色い部分が、改正箇所。

努力義務とは?

今回の法改正は、「義務」ではなく「努力義務」なので、これらに取り組まなかったからという理由で、法律違反になることはありません。したがって、罰則なども設けられていません。しかし今後、一部義務化される可能性もあるので、早めに取り組んでおくべきでしょう。

企業の取り組むべきアクション

本改正をふまえて、企業はどのようなことに取り組むとよいのでしょうか。努力義務とされている5つの項目に沿って紹介します。

(1)定年制の廃止

考え方として、もっともシンプルな方法が「定年制の廃止」です。一律年齢で退職のタイミングを決めるのではなく、各々の労働者の状況に鑑み、相談をしながら働き方を変えたり、退職のタイミングを決めます。

定年制を廃止するためには、現状の就業規則の変更と周知、届出などの手続きが必要です。これ以外にも、会社によっては退職金制度の見直しなども発生するかもしれません。顧問社労士などに相談しながら進めることをお勧めします。

最近では、ファスナーの世界的メーカーであるYKKグループが、定年の廃止を決定しました。新たに設けた制度では、63~64歳の時点で会社と話し合って、退職の時期や役割、仕事内容を決めていくそうです。

(2)定年を70歳まで引き上げ

2つ目は、「定年の引き上げ」です。現状、多くの企業が60歳か65歳を定年としていますが、それを70歳まで引き上げます。定年の引き上げに関しても、就業規則の変更と周知、届出などが必要なので、詳しくは顧問社労士にご相談ください。

(3)70歳までの継続雇用制度の導入

続いて3つ目です。すでに再雇用制度を導入している企業が多いと思いますが、この上限年齢を70歳まで引き上げます。65歳までとしていたところを、5年後ろに延長するイメージです。

たとえば、60歳を定年とし、「60歳~65歳」を再雇用期間としている場合、「60歳~70歳」に変更します。こちらも同様に、就業規則の変更・周知・届出が必要です。

なお、大手家電量販店のノジマは、65歳を定年としていますが、その後の健康状態・勤務状態・勤務態度・職務遂行能力などを勘定して、最長80歳まで雇用を延長できる制度を導入しました。1年毎の契約社員ですが、契約更新のタイミングで、継続するかどうかを相談して決めるそうです。

(4)70歳まで継続的に「業務委託契約」を締結する制度の導入

4つ目は、従来とは少し違った選択肢の提示になっています。3つ目と似ているのですが、違いは「雇用契約」ではなく「業務委託契約」に切り替えてもよいとしている点。つまり、社員ではなく個人事業主(フリーランス)になってもらい、関係を維持していく方法です。

雇用契約と業務委託契約の違い

雇用契約

労働を提供することに対して報酬が支払われる契約 ※労働提供者側は労働者となるので、労働基準法が適用される。使用者の指揮命令下で働く。

業務委託契約

一定の業務(委託業務)や仕事の成果に対して報酬が支払われる契約 ※独立した事業者同士の契約となるため、指揮命令権はなし。労働基準法の適用もなし。

すでに、業務委託契約の実績がある企業だと導入がスムーズだと思いますが、ない場合は新たな働き方のスキームをつくることになるので、難易度はやや高めです。

具体的に準備することとしては、業務委託として切りだせる仕事内容の検討(指揮命令なしで、場所・時間問わず遂行できる仕事)、仕事の依頼から業務完了までのフロー構築、支払い方法の決定、業務委託契約書の用意、社内ソフトを使う場合はシステム環境の準備などです。

(5)70歳まで継続的に「社会貢献事業」に従事できる制度の導入

5つ目も、従来にはない選択肢の提示です。「社会貢献事業」とは、「不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のこと」だと法改正の資料では説明されています。おそらく、企業のCSR活動のようなものを指すのではないかと思います。たとえば、環境保護に関する取り組みや、文化芸術振興に関する取り組みなど、会社の主力事業からは少し離れた社会貢献事業で、経験を活かしてほしいという意図でしょう。

なお、(4)(5)を実施する場合については、計画を作成した上で、過半数代表者の同意を得る必要があります。計画から周知までの流れは、以下の通りです。
創業支援等措置の実施に関する計画の記載例等について

60歳以降の賃金設定に迷ったら「最適給与クラウド」を活用する手も

60歳以降になると、人によっては「在職老齢年金」や「雇用継続給付」を受け取れる場合もあります。定年後の再雇用時などに、「どれくらいの給与設定にすればいいのか」と悩んだ場合は、多くの社労士が利用している「最適給与クラウド」というソフトを使ってみることをオススメします。

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さいごに

本改正を通して感じることは、「70歳まで働く時代」が目前まで迫っているということです。少子高齢化に歯止めがかからない今、日本は70歳まで働くことをスタンダードにする社会に向けて、準備を始めたと捉えることができます。改正の主眼は、企業が70歳まで就業できる制度づくりに努めることではありますが、一方で働く個人の視点で考えた場合、70歳まで働き続けられるよう、キャリアデザインしておく必要があるということだと思います。60歳や65歳で定年を迎えた後、どう働き続けるのか。あるいは、それまでに、十分な貯蓄を蓄えておくのか。「70歳まで働く時代」に備えて、企業のみならず個人も準備を始めなければならない時期に、差し掛かっているのではないでしょうか。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

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