社会保険労務士法人FORROU(フォロー) ロゴ

派遣業の「同一労働同一賃金」についての局長通達の内容は?

投稿日:2019年8月8日

2019年7月8日、厚生労働省職業安定局長より、「同一労働同一賃金に関する労働者派遣法の改正」に向けた通達が発表されました。令和2年度の「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」の概要が記載されています。

派遣元が「労使協定方式」を採用する際に用いる職種別賃金水準が明らかになりました。今回は、局長通達の内容についてのポイントを詳しく見ていきましょう。

派遣「労使協定方式」の職種別賃金水準を公表

厚生労働省は「職発0708第2号」を発出し、「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」について公開しました。

来年4月に施行される派遣法の同一労働同一賃金において、「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかを選択することが求められます。

「労使協定方式」を選んた場合は、「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金 (「一般賃金」)と同等以上の賃金額が要件とされることになります。

通達の内容

正社員と派遣社員のイメージ

「一般賃金」の根拠となる職業安定局長による通知が発出されましたので、派遣業界に携わる方は、確認しておきましょう。

基本的な考え方

労使協定に定める賃金の決定方法

  • 派遣元は、派遣先に雇用される通常の労働者との間の均等・均衡待遇を確保する
  • 「労使協定」を締結し、一定の事項を定めた場合は労使協定に基づく待遇を確保する
  • 労使協定に定める協定対象派遣労働者の賃金の額については、一般賃金の額と同等以上となるものでなければならない

一般賃金の「同等以上」とは、労使協定に定める協定対象派遣労働者の賃金の額が、一般賃金の額と同額以上であることを意味しています。

派遣労働者に対して、労使協定に定めた賃金が支払われていない場合は、派遣先に雇用される通常の労働者との間の均等・均衡待遇を確保しなければなりません。

一般賃金の取扱い

一般賃金は2種類

  • 平成30年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)
  • 職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額(時給換算)

一般賃金は、「基本給・賞与・手当等」、「通勤手当」、「退職金」に分かれます。

「基本給・賞与・手当」は以下の方法により算出します。

職種別の基準値(①)×能力・経験調整指数(②)×地域指数(③)

①職種別の基準値

賃金構造基本統計調査の特別集計により算出した賃金、または職業安定業務統計の特別集計による求人賃金(月額)の下限額の平均を基に一定の計算方法により賞与込みの時給に換算した額です。

②能力・経験調整指数

勤続年数別の所定内給与に賞与を加味した額により算出した指数。「勤続0年」を 100 として算出したもの。

0年 1年 2年 3年 5年 10年 20年
100.0 116.0 126.9 131.9 138.8 163.5 204.0

③地域指数

地域の物価等を反映するため、都道府県の全国計を100 として職業大分類の構成比の違いを除去して算出した指数通勤手当の取扱いは2種類

  • 実費支給により「同等以上」を確保する
  • 一般の労働者の通勤手当に相当する額と「同等以上」を確保する
  • 一般賃金の範囲は、労働基準法の賃金に含まれるかどうか判断し、基本給と諸手当も含まれる。(時間外・休日及び深夜の労働手当等は含まれない)

退職金の取扱いは3種類

  • 退職手当の導入割合、最低勤続年数及び支給月数の相場について、国が各種調査結果を示し、その中のいずれかを選択し、それと退職手当制度を比較する
  • 派遣労働者の退職手当相当にかかる費用について時給換算し、派遣労働者の賃金に加算する。同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準に退職水準に退職費用分(6%)に上乗せし、その上で両者を比較する。
  • 派遣労働者が中小企業退職金共済制度(確定給付付年金や確定拠出年金等の掛金も含む)に(給与の6%以上で)加入している場合は、退職手当については同種の業務に従事する一般労働者と同等以上であるとする。

協定対象派遣労働者の賃金の取扱い

基本給・賞与・手当等

基本給と賞与・手当等をを合算した額を時給換算した額。一般基本給・賞与等の額と同額以上でなければならない。

通勤手当

実費支給により「同等以上」を確保する場合は通勤手当として支給される賃金を時給換算した額。

退職金

退職手当制度で比較する一般の労働者の退職金に相当する額と「同等以上」を確保する中小企業退職金共済制度等に加入する

「基本給・賞与・手当等」「通勤手当」「退職金」の全部又は一部を合算する場合の取扱い

一般賃金 協定対象派遣労働者の賃金
「一般基本給・賞与等」+「一般通勤手当(72 円)」 「基本給・賞与・手当等」+「通勤手当」
「一般基本給・賞与等」+「一般退職金」 「基本給・賞与・手当等」+「退職金」
「一般基本給・賞与等」+「一般通勤手当(72 円)」+「一般退職金」 「基本給・賞与・手当等」+「通勤手当」+「退職金」

労使協定の締結における留意点

基本給・賞与・手当等、通勤手当、退職金は労使で十分な議論を行った上で合意した内容を労使協定に定めること。

本通知に示す統計以外の利用

本通知に示す統計以外の統計は、理由を労使協定に記載すること。

まとめ

ポイントは下記の2点です。

  • 退職金も同等に正規社員の水準を厚生労働省が示した値に基づいて支払う、または時給換算して支払わなければならない
  • 正規社員が受け取る基本給や賞与・手当・退職金の総額を超えて派遣社員に支給する

労働者派遣事業を行っている企業は、2020年4月の施行までに準備を始めるていきましょう。

関連記事

【社労士が解説】入管法改正に絡んで再確認しておきたい、外国人雇用のポイントと注意点!

「前回の記事」では、2019年4月から始まった改正入管法の中身についてご紹介しました。続くこの記事では、新設された在留資格「特定技能」を活用して、外国人労働者を採用・雇用するまでの具体的な流れについて …

【2020年1月】電子申請利用促進のため、ハローワークの窓口受付が16時までに短縮!

ハローワーク窓口受付時間、変更の背景 ハローワークでは令和2年1月から、「雇用保険適用窓口」の来所時受付時間が8時30分~16時00分に変更となりました。 これは政府が行政手続に掛かる事業者の方の作業 …

【社労士が解説】有給休暇義務化を始めるなら「計画的付与制度」も活用しましょう

労働基準法の改正により2019年4月から、年次有給休暇のうち5日については、雇う側が休むように促し、日を決めて休ませなければならないようになりました(※参考記事)。 この法律改正に向けた対応策のひとつ …

【2019年4月改正】労働安全衛生法の改正後の変更点を詳しく解説!

2018年6月に成立した「働き方改革法」。「有休取得の義務化」や「同一労働同一賃金」などインパクトが大きい法改正が多い中、認知が進んでいない法改正が「健康情報取扱規程作成の義務化」ではないでしょうか。 …

【障害者雇用促進法改正】障害者雇用企業実務担当者必見 調整金・報奨金減額について解説

令和4年10月、政府は障害者総合支援法などの改正案を閣議決定しました。今期国会で成立すれば、令和6年4月1日に一部、施行される予定です。 その中には障害者雇用促進法改正案も含まれており、閣議決定に先立 …