36(サブロク)協定の有効期間を1〜12月に設定している会社は意外と多く、毎年11月ごろから36協定の作成準備にとりかかる経営者、人事、総務など実務担当者の方は多いのではないでしょうか。
ところが一方で36協定の重要度を理解しないまま
「ゼロから作るのは大変だから、去年と同じように作成して提出しておけば問題ないよね」
などと考え、適当に済ませようとする実務担当者も残念ながら多いように感じています。
特に今年、前任者から引き継ぎ、どうしたらいいかと悩み、この記事にたどり着いた方にはきちんと36協定に向かい合い、取り組んでいただきたいので今回、36協定の概要、時間外労働・休日労働の上限、書類作成の要についても解説していきます。
毎年作成されていて、慣れている実務担当者の方も多いと思いますが、ただ単に前年のフォーマットを踏襲しているだけであれば、一度ぜひ読み進めて理解を深め、新たなる36協定の作成にお役立ていただけますと幸いです。
36協定とは
労働基準法第32条により雇用主は原則
それを超えて従業員を働かせることはできないようになっています。
しかし経済活動をしていると繁忙期、大量受注などどうしても残業や休日出勤をお願いしないと間に合わないような事態も想定できます。
そこで第36条を設け、労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者と“書面による”労使協定を行ない、管轄の労働基準監督署に届け出れば、残業や休日出勤が認められ、お願いできるようになっているのです。
なお第36条に定められていることから、36協定と呼ばれています。
36協定にまつわる書類は2つ
36協定では前述したように書面による労使協定を行うのですが、
- 協定書
- 協定届
の2種類を実務担当者は用意しなければなりません。カンタンに説明すると、
協定書→労使間で協定を結びましたよと証する書面
協定届→労使間協定締結済みですよと行政に報告する書面
となり、条文に従って労使間の話合いを行い、時間外・休日労働に関する協定書を作成、締結したのち、時間外・休日労働に関する協定届を作成し、実務担当者などが労働基準監督署に持参または郵送し届け出ます。
ただし時間外・休日労働に関する協定書兼協定届といったように2つを兼ねさせることも可能で、その場合は時間外・休日労働に関する協定届に労使双方の署名または記名・押印が必要です。
実務担当者は36協定について、少なくとも兼用もしくは別々に2つ作成しなければならないということです。
また働き方改革の一環で現在、大きく変わっていることが1点ありますので、次章でお伝えしておきます。
時間外労働・休日労働の上限に注意する
実は現在、36協定を結びさえすれば従業員を際限なく使えるというのは正しくありません。
2020年4月以降、規模にかかわらず企業は原則
- ⽉45時間
- 年360時間
を越えて従業員に時間外労働させることはできなくなっています。また臨時的な特別の事情がある場合で、いくら特別条項で労使が合意していたとしても次の範囲を越えて働かせてはならないのです。
- 時間外労働 720時間/年
- 時間外労働・休⽇労働合計 100時間/⽉
- 時間外労働・休⽇労働合計平均 80時間/月(2,3,4,5,6か⽉平均すべてにおいて)
- 時間外労働が⽉45時間超過 6か⽉/年が限度
なお必要なのにもかかわらず36協定の締結と届け出を怠った場合、時間外労働・休日労働の上限を超えて働かせた場合は、労働基準法第119条第1号により「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられる可能性がありますので、注意が必要です。
ここまでお伝えしてきたことを踏まえるといかに36協定が重要かおわかりいただけたと思いますので、これより時間外・休日労働に関する協定書類作成の要をお伝えしていきます。
時間外・休日労働に関する協定書類作成の要
実務担当、書類作成担当のみなさまにお伝えすべき36協定、時間外・休日労働に関する協定書類作成の要は大きく分けて2つあります。それは
- 法令に則していること
- 実態に即していること
です。
法令に則していること
これまでお伝えしてきたとおり、法令に則して労使間協定を行い、時間外・休日労働に関する協定書を作成し、時間外・休日労働に関する協定届を労働基準監督署に届け出ます。
また従業員が時間外労働や休日労働の上限を超えないように、残業時間などを常日頃からチェックしておくことも含みます。
実際に従業員がどのくらい残業したか、休日出勤したかという基本的なチェックを怠ったために⽉45時間、年360時間という法定上限を守れているかだけではなく、締結した36協定どおりに労使の実行ができているかどうかすら把握できていないケースも実は少なくありません。
実態に即していること
特に今年、初担当される方は、前任者から資料を受け取ることができればそこにデータが載っているはずですが、何も渡されなかった場合は社内にある資料をくまなく探し、実態を把握するところから始めましょう。
具体的には、過去1年間の全社員の残業状況を調べてください。多くの場合、労務管理ソフトに記録されていると思いますが、紙の帳簿しかない場合は、エクセルなど表計算ソフトで地道に年間残業時間などを従業員別にまとめていきます。そして
- 最多残業者(Aさん)
- Aさんの残業時間数
- 最多残業部署
- 最多残業時期
などを割り出し、必要に応じてAさんに事情を聴くなどすれば、協定書や協定届に記載すべき下記項目が自然と分析結果として出てくるはずです。
- 細かく分けた時間外・休日労働発生業務とその範囲
- 時間外・休日労働が発生する具体的な理由
- 必要最小限の時間外労働・休日労働時間
- 必要最小限の時間外労働・休日労働者数
- 臨時的な特別の事情にあたる具体的な理由
- 特別条項の要否
実態に即しておく必要性の最たるものは、やはり労使間協定がスムーズに行われる点です。実態に即していなければ労働組合や労働者の代表から却下され、いつまで経っても36協定が締結されない、労働基準監督署への届け出ができない。そういう結果につながりかねません。
まとめ
いわゆる36協定、時間外・休日労働に関する協定届は労働時間が1日8時間、1週40時間以内で収まる残業ゼロの事業所は必要ありませんが、多くの事業所は対応しなければならないでしょう。
年末の忙しい時期ではありますが法令、実態に合わせて作成していけば、思ったよりも実務に難航することはないはずです。
参考文献
- https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
- https://hcm-jinjer.com/blog/kintai/36agreement-written-agreement/
- https://www.mhlw.go.jp/content/000708408.pdf
- https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
- https://www.vbest.jp/roudoumondai/columns/4010/
- https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf