2018年に成立した「改正入管法」が、2019年の4月1日より施行されました。新しい在留資格を創設し、人手不足が深刻化する14の業種において、外国人労働者を積極的に受け入れることが、法改正の趣旨となります。
この記事では、入管法改正の中身を中心に、日本での外国人雇用の変化についてご紹介します。
そもそも「入管法」「在留資格」ってなに?
あらゆる人の出入国を管理する「入管法」
「出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)」は、日本への入国や日本からの出国管理、および外国人の日本での在留許可、手続き、違反時の罰則などを定めた法令です。
日本人がもっとも入管法に関わるシーンといえば、海外に渡航する際の出入国審査でしょう。日本を出国したり、日本に入国したりする場合、法務省が発行する有効なパスポートを見せることで、出入国が許可されます。日本人ならパスポートさえ持っていれば、出入国にハードルはありません。
一方、外国人が日本に入国する場合、パスポート、国によってはビザが必要です。さらに入国後、日本で長期にわたって生活をする、あるいは就労する場合、パスポートやビザだけでは不十分。日本で在留資格を取得し、在留カードを所持しておく必要があるのです。
こういった細やかなルールを定めた法令が、この記事のテーマでもある「入管法」だと言えます。
外国人が日本で暮らすために必要な「在留資格」
「在留資格」とは、先述の通り外国人が日本で長期にわたって生活をするために必要な資格で、日本の法務省(入国管理局)に申請することで取得ができます。
在留資格は現在約30種類あり、「活動類型資格」と「地位等類型資格」に大別できます。「活動類型資格」は、たとえば「英会話の教師として働く」「日本の大学で学ぶ」など、日本でどのような活動を行うかを明確にすることで取得できる資格です。一方「地位等類型資格」は、「日本人男性と結婚して一緒に暮らす」「日本人の養子になる」など、地位に関連して取得できる資格です。
各在留資格に応じて、在留期間も細かく定められています。一部を除き、たいていの場合は最長で5年。定められた期間を超えて日本に滞在すると、不法滞在となり罰則の適用もあります。
また、「就労」や「留学」「研究」など、在留資格取得時に申請した範囲でのみ、日本での収入をともなう活動が認められています。申請した範囲と異なる活動や仕事を行う場合には、資格の変更が必要。万が一変更を怠り、申請とは異なる活動をした場合は、不法就労となり罰則が適用されるリスクが発生します。
これが「在留資格」の概要です。なお、在留資格の一覧は以下より確認ができます。
【参考】法務省入国管理局『在留資格一覧』
日本は単純労働による在留資格を認めてこなかった
さて、ここからが本題です。上記の『在留資格一覧』からも読み取れるように、日本では高い専門性や技術力を持つホワイトカラー外国人を、主として受け入れるスタイルを堅持してきました。教師や研究職、経営者、医師などが、日本で働くことのできる主な職種とされ、建前上はホワイトカラー“以外”の受け入れは認めてこなかったのです。
しかし、実際はホワイトカラーに限らず、コンビニや飲食店、畑や製造ラインでも、外国人労働者をたくさん見かけます。これらの外国人労働者は、以下のような在留資格で来日し就労している人たちです。
●日本でのスキル取得を目的とした「技能実習」という位置づけでの就労
●「留学」目的で日本に来ている留学生が、週28時間を上限に許可されている就労
●インターンやワーキングホリデーなど、法務大臣が指定して認める「特定活動」による就労※なお、日系人(日系ブラジル人など)は、日本に祖先を持つため「定住者」の在留資格を保有し、どんな職種でも働くことができます。
実習生や留学生といった、ある意味で例外的、補助的な位置づけでの就労だと言えます。これが、法改正以前の外国人雇用の現状です。では法改正により、どう変わっていくのでしょうか。
改正入管法で変わる、在留資格の中身
結論から言うと、在留資格「特定技能」が新設されたことで、人材難とされる14分野において、より多くの外国人労働者を受け入れる体制が整えられました。14分野には、サービス業や製造業、農業、漁業などが含まれます。つまり、ホワイトカラーに限らず、広く外国人を受け入れる方針に転換したと捉えることができます。
14分野で働くために必要な在留資格「特定技能」とは?
新設された「特定技能」は1号と2号の2段階構成になっています。
1号は、相当程度の知識・経験を持ち、「技能評価試験」と「日本語能力試験」に合格すれば、最長5年まで働ける在留資格です。いずれの試験もそれほど難しい内容ではなく、基本さえ押さえておけば合格できる内容です。試験は国内、および国外でも受験できるよう、準備が進められています。
一方、2号はさらに難しい「技能試験」に合格し、熟練した技能を認められた場合、資格更新が続く限り日本で働き続けることが可能な在留資格です。2号の特徴としては、配偶者と子どもを日本に呼んで一緒に暮らすことができる点。1号や技能実習には認められていない、家族帯同が可能です。ただし、2号の対象となっているのは、現在14分野のうち、「建設業」「造船舶用工業」の2分野のみ。ほかの12分野で就労する人たちは、最長5年で本国へと帰ることになります。
なお、資格取得に必要な各試験は、順次行政機関によって準備されていくとのこと。2019年4月現在では、介護・外食・宿泊の3分野でのみ、1号認定の試験がスタートしています。
外国人労働者の受け入れが可能になる14分野とは?
では、特定技能の在留資格を取得すれば、どのような仕事に就業できるのでしょうか。
冒頭で触れたように、本改正が目指す最大の目的は、深刻化する人材不足への対策です。そのため、特定技能取得者が就労できる14分野(特定産業分野)は、現在、若手の流入が少なく、深刻な人手不足に悩む業界、つまり介護や建設、製造、農漁業、外食などに定められました。
外国人労働者の見込み流入者数が多い順に、介護(約6万人)、外食(約5万3000人)、建設(約4万人)と並びます。これらの業界では、今後、今以上に外国人労働者の活用が進んでいくことが予想されます。
なお、上の図にも表記されていますが、季節変動の大きい「農業」「漁業」に限って、派遣契約も可能。それ以外はすべて直接雇用のみです。派遣会社が外国人労働者の登録を促し、外部企業へと派遣する形態は認められていません。
「特定技能」と「技能実習」の違いは?移行は可能?
「特定技能」は人材不足対策、「技能実習」は国際協力が目的
新たに創設された在留資格「特定技能」ですが、従来からある「技能実習」と本質的に似ていると感じる方も多いでしょう。このふたつ、どう異なるのでしょうか。法務省による以下の表をもとに確認してみます。
まず、大前提ですが、技能実習は「技能実習法」に準拠しており、目的は「国際協力の推進」です。日本で技術を習得し、本国(主に発展途上国)で活用してもらうことを目指しています。外国人の育成を趣旨として誕生した制度であることから、入国時点での能力は原則として問われません。
また、日本企業とのマッチングにあたっては、送出国の認定機関と日本の監理団体が介在する点も特徴的です。転籍や転職も基本的にはできません。つまり、「あなたは、この企業でこの技能を習得してきてね」と本国から送り出されるのが、技能実習だと言えます。
一方、特定技能は先述の通り、日本語能力と技術力の試験を受けてはじめて認定されます。日本は「即戦力として日本で働ける人に来てほしい」からです。この点が育成を目的とした技能実習と大きく異なります。また、日本企業とのマッチングに際しては、企業と外国人労働者の二者間で完結します。
特定技能は、技能実習と比較してとてもシンプルな制度設計になっています。そのため、今後、技能実習ではなく、特定技能の在留資格取得者が増えることが見込まれます。
「技術実習」から「特定技能」への無試験シフトも可能
このように異なる制度上にある「技能実習」と「特定技能」ですが、「技能実習」から「特定技能」への切り替えが可能な業種もあります。「切り替え可能な業種もある」という点がポイントで、すべてが切り替え可能というわけではありません。技能実習にはあって、特定技能にはない業種も、当然ながら存在するからです。
技能実習・特定技能の両方に存在する業種の場合、「技能実習2号・3号の修了者」であれば、無試験で「特定技能1号」へと移行ができます。「特定技能」に在留資格を切り替えた後、最長5年にわたって、日本で働くことも可能です。技能実習プラス特定技能で、合計して10年の滞在でも、法律上は問題ありません。
現状を鑑みると、当面、技能実習から特定技能へのシフト組が、この制度の主な利用者になると言われています。
「改正入管法」の施行はいつから?
改正入管法は2019年4月からの施行ですが、特定技能1号の取得に必須である試験は、2019年4月現在、「介護」「外食」「宿泊」の3分野でのみ始まっています。その他の11分野については、2019年度内に試験が始まる予定とされています。そのため、14分野すべての業種がそろうのは、2020年4月になりそうです。
また、特定技能2号取得のための試験、つまり熟練した技能を持っているかどうかを認定する技能試験は、早くても2021年度からの実施となるため、2号が誕生するのは2年後になります。
まとめ
以上が、2019年4月から施行された改正入管法の概要でした。国の試算では、この法改正によって日本に流入する外国人の数は、およそ34万5000人。現在、日本で就労している技能実習生やホワイトカラー外国人よりも多い数です。特に、介護や外食、建設業界においては、外国人の雇用が“当たり前”になっていくでしょう。観光地だけではなく、職場においても外国人との共存が、今後より一層求められそうです。
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。