2018年頃より解禁の動きが加速した「副業」。2018年1月には、厚生労働省が作成する「モデル就業規則」(就業規則作成時にお手本とするもの)から、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」の一文が削除され、副業解禁・推進の流れに拍車がかかりました。コロナ禍をへて現在、「副業」はどの程度 実施されているのか。副業を行う人の特徴は。企業側の動きはどうかなど、「副業」にまつわる現状を、数字から読み解きます。
副業の実施状況は、直近6年間で「大きな変化なし」
「副業元年」と呼ばれた2018年ですが、実際に副業に取り組む人の数は、どのように変化したのでしょうか。
図①は、リクルートワークス研究所が毎年実施する「全国就業実態パネル調査(以下、「パネル調査」)」より、「Q. 昨年1年間の中で主な仕事以外に収入を伴う労働(副業・兼業 ※株の配当・利息、家賃収入などは除く)をしましたか」という質問に対する回答を、直近6年分抽出したものです。1年間に副業をした人(副業経験あり)の割合は、13%~14%間でわずかに変動があるだけで、大きな変化はありません。
図①
「副業元年」と言われた2018年前後でも、それほど大きな変化は見られませんでした。つまり、「副業」という言葉は注目されたものの、それほど多くの人が「副業」に至ったわけではないというのが実情のようです。
副業経験×年齢・性別ー男性は「U字型」、女性は「横這い」
続いて「13%」という数字を解体してみましょう。図②は、同じく「パネル調査」の2021年調査をもとに、1年間の副業経験の有無を「性別」と「年齢」に分けて抽出したものです。
図②
「副業経験あり」に絞ってグラフ化すると、図③のようになります。
図③は、X軸に年齢、Y軸に「副業経験あり」の割合を設定しました。まず男性に注目をすると、10代にもっとも高い割合(22.6%)を示し、50代に向けて徐々に低下。その後、上昇に転じるという少し形のいびつなU字型を示しています。上下逆にすると、賃金カーブに類似した形になりますね。一方で女性ですが、10代・20代は少し高いものの、30代以降は横這いが続きます。
図③
男女ともに10代が高い値を示していますが、これは「副業」のなかでも、大学生の「バイトのかけもち」を表している数字だと推測できます。20代も男女ともに約17%と、比較的高い数値となっていますが、初任給を補填するために「副業」を行っている、あるいは、本業とは別の知識・経験の獲得を目指して「副業」を行っているものと考えられます。
30代以降は、徐々に仕事やプライベートが多忙となり、「副業」に割ける時間の確保が難しくなってくるのでしょう。副業を実施している人の数は減ります。60代以降で男性の副業率が上昇するのは、本業の定年・再雇用等により、時間に余裕が生まれてくることに起因するのではないでしょうか。
副業経験×雇用形態ー「正社員」は副業経験が少なく「派遣社員」は多い
もう少し深掘ってみましょう。図②はすべての就業形態を含んだ数値でしたが、図④では会社役員やフリーランスなどを除き被雇用者のみに絞って、「雇用形態」別で1年間の副業率を抽出しました。1年間に副業をした人(副業経験あり)の割合は、さらに下がって12.4%。
雇用形態別に見ると、「正社員」の副業率がもっとも低く10.3%。逆にもっとも高い雇用形態が「派遣社員」で18.3%でした。
「嘱託」も比較的高い割合を示していますが、日本では定年後の再雇用者を「嘱託(社員)」と呼ぶ慣例があるため、60代以降の再雇用者の約15%が副業をしていることになります。これは図③で見られた傾向とも一致しますね。
図④
図⑤
副業希望×年齢・性別ー副業希望は、男女差なく「30代」がもっとも高い
ここまでは「副業の実施状況」について見てきましたが、ここからは「副業の意向状況(希望状況)」について見てみましょう。図⑥は、2021年の「パネル調査」より、「Q.今後、主な仕事以外に収入を伴う労働(副業・兼業)をしたいか」という問いに対する回答です。
「はい」と答えた人を「副業意向あり」、「いいえ」と答えた人を「副業意向なし」とし、「性別」「年齢」別で割合を整理しました。
図⑥
グラフにすると図⑦のようになります。
図⑦
「副業意向」に関しては、性別による相違はなく、同じ形状のカーブになっています。年齢別で見た場合、もっとも「副業意向」が高いのは30代で、女性では40%を超えています。次いで、20代・40代と高い傾向です。30代をピークに、副業に対する意欲が低下していく様子がうかがえます。つまり、ミドル層・シニア層は、それほど副業を望んでいるわけではないことが分かります。
副業を希望する理由ー「収入アップ」目的が半数以上、「知識・経験獲得」も24.5%
図⑧は、2021年の「パネル調査」より「副業・兼業をしたいと思う理由」の問いに対する回答です。半数以上を占める61%の人が、「生計を維持するため」と答えています。また、約59.6%の人が「貯蓄や自由に使えるお金を確保するため」と回答。つまり、副業を希望する理由は、圧倒的に「収入アップ」だということです。次いで、24.5%の人が「新しい知識や経験を得るため」、つまり「スキルアップ」を目的に、副業を希望しています。
図⑧
企業側の動向ー副業を容認・推奨する企業は約51%、社外の副業者を受け入れている企業は約48%
視点を変えて、企業側の動向も確認してみます。リクルートの実施している「兼業・副業に関する動向調査(2021年)」によると、従業員の兼業・副業を認める人事制度が「ある」と答えている企業は、50.5%と半数を占めることが確認できます。
副業を容認(推奨)する人事制度を導入した目的は、「従業員のモチベーション向上」「従業員の定着率の向上、継続雇用につながるため」「従業員の収入増につながるため」などが上位にランクインしています。
図⑨
また、「社外からの兼業・副業人材の受け入れ状況」について、「受け入れている」と答えた企業が47.9%と、こちらも半数近い企業が受け入れているようです。副業人材を受け入れる目的は、「人手不足を解消するため」「社内人材にはない知識やスキルを持った人材を確保するため」などが上位を占めています。
図⑩
さいごに
「副業」に関連する数字を追ってきましたが、労働者サイドでは、約30%が副業を希望しているものの、実態として1年以内に副業を実施した人の割合は13%程度にとどまることが分かりました。ボトルネックがあるとすれば、「本業との両立の難しさ」や「休日・休息時間の減少への懸念」などがあるのではないでしょうか。あるいは、約半数の企業が依然、副業を認めていないため、「副業がしたくてもできない」という実情があるのかもしれません。
なお、企業が副業を解禁する場合、「知らなかった…」では済ますことのできない、いくつかの落とし穴があります。たとえば、本業・副業ともに被雇用者として働く場合には、両社の労働時間を通算(足し合わせる)し、法定労働時間を超える場合は、割増賃金を支払わなければならないケースも。後々のトラブルを避けるためにも、副業制度を導入する前に、あるいはすでに導入している場合であっても、一度、お近くの社労士などの専門家へ相談することをお勧めします。
※記事内のすべての表・グラフは、記載の出典元のデータをもとに、本メディアにて作成・編集。
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。