非正規雇用の労働者の正社員化などのキャリアアップを行った事業主に助成されるキャリアアップ助成金の正社員化コースは、令和5年11月29日以降制度が拡充されます。
この記事ではキャリアアップ助成金の概要や、申請要件などを紹介し、今回の制度改正の概要と申請にあたっての留意点を解説します。自社の優秀な非正規雇用の労働者の正社員化などを検討するにあたり、参考にしてください。
キャリアアップ助成金とは
有期雇用労働者など、いわゆる非正規雇用の労働者のキャリアアップを促すために正社員化などの処遇改善を行った事業主に対する助成金がキャリアアップ助成金です。
支給対象が正社員化支援、処遇改善支援の2つに大別され、正社員化コース、賃金規定改定コースなど、合計7つのコースが設けられています。このうち、今回制度が改正されるのは正社員化コースとなります。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請要件
改正点の解説の前に、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請要件について確認しましょう。
①事業主の要件
詳細な要件が定められていますが、代表的なものを以下に紹介します。なお、これらの要件を全て満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を設置している事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに対象労働者のキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格認定を受けている事業主であること
- 対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
- 有期雇用労働者または無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換する制度を就業規則等に規定し、その規定に基づき実際に正社員化を行った事業主
- 上記で正社員化した労働者を正社員化後6カ月以上雇用し、6カ月分の賃金を支給した事業主
※正社員化後の賃金(基本給、諸手当)は、正社員化前と比較して3%以上増額していること。 - 支給申請日において上記の制度を継続して適用している事業主
②対象となる労働者の要件
詳細な要件が定められていますが、代表的なものを以下に紹介します。
- 有期雇用労働者または無期雇用労働者
- 正規雇用労働者として雇用されることを約した上で雇用された有期雇用労働者・無期雇用労働者でないこと
- 支給申請日において正社員化後の雇用区分が継続し、離職していないこと
- 支給申請日において有期雇用労働者または無期雇用労働者への転換が予定されていないこと
- 正社員化後に定年制が適用される場合に、正社員化の日から定年までの期間が1年以上あること
※賃金の額や計算方法が正社員と異なる雇用区分の就業規則等(例:契約社員就業規則など)の適用を通算6カ月以上受けていることなど、詳細な要件があります。
③正社員化とは
正規雇用労働者に適用される就業規則が適用され、賞与または退職金制度と昇給のある正規雇用労働者への転換が必要です。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の改正ポイント
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、令和5年11月29日以降適用分から改正され、そのポイントは以下の4点となります。
①助成金の見直し(1人あたり)
支給対象期間が6か月から12か月(1期6か月×2期)に拡充されます。
これに伴い、支給額が以下の通り変更になります。
【変更後】 中小企業80万円(1期あたり40万円×2期)、大企業60万円(1期あたり30万円×2期)
上記の額は有期雇用労働者から正社員に転換した場合の助成額で、無期雇用労働者から正社員に転換した場合は半額となります。
また、2期制の適用は令和5年11月29日以降に正社員化した労働者に関する支給申請が対象です。
なお、中小企業の定義は以下の表の通りです。資本金等の額、常時雇用する労働者の数のいずれか一方を満たせば要件を満たします。
業種 | 資本金の額・出資総額 | 常時雇用する労働者の数(※) |
小売業(飲食店含む) | 5000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※2カ月を超えて雇用される労働者であり、かつ週所定労働時間が通常の労働者と概ね同等の労働者の数
②対象となる有期雇用労働者の要件緩和
対象となる有期雇用労働者の雇用期間の要件が、現行の「6か月以上3年以内」から「6か月以上」に緩和します。
従来は、雇用期間が3年を超える有期雇用労働者については、一旦無期雇用労働者に転換した上で正社員化しなければ助成金の支給要件に該当しませんでした。
なお、雇用期間が5年を超える有期雇用労働者の正社員化に伴う助成額は、無期雇用労働者
の正社員化に伴う助成額と同額(有期雇用労働者の正社員化の場合の半額)になります。
③正社員転換制度を新設し、実際に転換した場合の加算措置の新設
正社員転換制度を新たに規定した事業主が、その規定に基づき令和5年11月29日以降に正社員に転換した場合に①の支給額に加算して以下の額が支給されます。
なお、加算申請の対象となる労働者が、転換後の規定を適用して1人目の正社員転換であることが要件です。
また、令和5年11月28日以前に規定を整備した場合であっても支給対象になりますが、キャリアアップ計画期間内であることが要件です。
例えば以下の場合には支給対象となります。
- キャリアアップ計画期間:R5/10/1~R10/9/30
- 正社員転換制度の規定施行日:R5/10/1
- 1人目の正社員転換日:R5/12/1
※1人目の転換時に①+③を支給(中小企業:100万円、大企業75万円)
※無期雇用労働者の正社員転換の規定についても同額を加算
※正社員と非正規社員の待遇差は、転換前6カ月の時点で設けられている必要があります。あくまで「転換規定」は設定されておらず、新設する場合に加算措置の該当となります。
④多様な正社員制度を新設し、実際に転換した場合の加算額の増額
多様な正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員)に関する制度を新たに規定し、実際に多様な正社員に転換した場合の加算額が以下の通り増額されます。
なお、助成の要件となる規定施行日や多様な正社員への転換日については、③の正社員転換制度新設の場合と同様になります。
【変更後】 中小企業:40万円、大企業30万円
※1人目の転換時に①+④を支給(中小企業:120万円、大企業:90万円)
※多様な正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員)制度の新設と、実際の転換に対する助成額の加算はいずれか1回のみです。例えば、既に勤務地限定正社員制度を設けて転換を行って助成額の加算を受けた後に、新たに職務限定正社員制度を新設し、転換を行ったとしても助成額の加算は行われないことになります。
※多様な正社員とは(フルタイム正社員と異なる賃金算定方法や待遇は原則認められない)
(用語説明)
勤務地限定正社員:転勤範囲が限定されている、或いは転居を伴う転勤がない正社員
職務限定正社員:高度な専門性を要する業務、資格が必要な職務に専門的に従事する正社員
短時間正社員:フルタイムの正社員と比較して週所定労働時間が短い正社員
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請にあたっての注意点
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請は基本的には以下の①~⑤の手順で進めます。その際の注意点について、以下で解説します。
なお、申請は各都道府県の労働局や、ハローワークなどに相談しながら自ら行うことも可能ですが、助成金の申請手続のみならず、就業規則など社内の規程改正なども自社のニーズに合わせた形で進める必要があるため、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
①キャリアアップ計画の提出
各実施日前日までにキャリアアップ計画を策定し、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長(以下「管轄労働局長」という)まで提出する必要があります。キャリアアップ計画とは、有期雇用労働者または無期雇用労働者の今後のキャリアアップの大まかな取り組みイメージで、キャリアアップ計画書として提出します。
なお、あくまで当初予定であり、内容は随時変更可能です。変更する場合は管轄労働局長にキャリアアップ変更計画書を提出します。
②就業規則等の改定
正社員への転換に関する規定がない場合には就業規則等の改定が必要です。
規程整備日は、施行日(内容が労働者に周知された日)になりますが、就業規則を改定する場合には、施行後速やかに労働基準監督署に届出を行う必要があります。
常時使用する労働者が10名未満で、就業規則の届出を行わない場合は、周知日が分かる書類が必要になります。
③正社員化実施
就業規則等に基づき、正社員化を行います。
④正社員化後6カ月の賃金支払い
先述の通り、正社員化前6カ月と比較して3%以上の賃金の増額が必要です。
⑤申請
④の賃金を支払った日の翌日から2カ月以内に事業所の所在地を管轄する都道府県労働局に申請書を提出します。(ハローワークで提出を受け付けている場合もあります。詳細は各都道府県労働局に確認してください)
なお、2期目の申請は、④の後の6カ月の賃金を支払った日の翌日から2カ月以内に行います。
申請にあたってはキャリアアップ助成金支給申請書および関係書類のほか、以下の添付書類
を提出しなければなりません。
- 管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画(写し)
- 就業規則または労働協約等(写し)
- 対象労働者の正社員化前後の雇用契約書または労働条件通知書等(写し)
- 対象労働者の正社員化前後の賃金台帳等、及び賃金台帳3%以上増額に係る計算書(写し)
- 対象労働者の正社員化前後の出勤簿またはタイムカード等(写し)
※適用する要件によっては、追加で提出しなければならない添付資料もあります。
詳細は以下の資料を参照ください。
助成金を活用して自社の優秀な従業員を定着させよう!
この記事で紹介した通り、キャリアアップ助成金(正社員化コース)が拡充されています。
今回の制度改正を契機にして、非正規雇用の労働者の正社員化の規定に基づき、優秀な人材を実際に正社員化することで、必要な助成を受けながら自社の人材確保につなげてみてはいかがでしょうか。