新型コロナウイルス感染症の影響により、国内における多くの企業が経営難に陥りました。
政府は令和2年4月1日から令和4年11月30日までの緊急対応期間および令和4年12月1日から令和5年3月31日までの経過措置期間において、事業者に対して支援を実施したのです。
この記事では、コロナ渦における事業者を支援する制度である雇用調整助成金について、リーマンショック時と比較して解説します。コロナ融資による倒産リスクと現状も合わせて解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
雇用調整助成金とは?
雇用調整助成金とは、経済上の理由によって事業活動の縮小をせざるを得ない事業主向けに、従業員の雇用維持を図るべく厚生労働省から支援を受けられる制度です。
新型コロナウイルス感染症拡大によって多くの事業者が経営に苦しみました。
コロナ渦における雇用調整助成金の支給の対象者は、下記の通りです。
- 新型コロナウイルス感染症の影響によって経営が悪化し、事業活動が縮小している
- 直近1カ月間の売上高または生産量が前年同月比10%以上減少している
- 労使間の協定に基づいて休業を実施し、休業手当を支払っている
助成対象となる労働者は、雇用保険の被保険者であることが要件となりますが、雇用保険の被保険者ではない方は緊急雇用安定助成金が助成対象となります。
コロナ渦における雇用調整助成金の支給決定額(緊急雇用安定助成金を含む)は、令和2年が31,555.04億円、令和3年が23,488.83億円、令和4年が8,463.57億円です。
リーマンショック時の中小企業緊急雇用安定助成金
歴史的な大不況であるリーマンショック時にも、コロナ渦における雇用調整助成金のような支援制度がありました。それが、中小企業緊急雇用安定助成金です。
2008年9月15日にアメリカにある投資銀行のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが住宅市場の悪化によって経営破綻しました。それから世界的に連鎖して金融危機が発生し、日経平均株価は26年ぶりの安値水準を記録。日本の中小企業では、景気悪化によって賃金が低下し、多くのリストラが発生しました。
経営に苦しむ中小企業を助けるべく、厚生労働省は中小企業緊急雇用安定助成金を支給しました。
経済上の理由によって事業活動の縮小をせざるを得ない事業主が、休業や教育訓練の実施によって従業員の雇用を維持するためにかかる費用を助成します。
支給対象としては、最近3ヶ月の生産量が直前3ヶ月または前年同期に比べて原則5%以上減少した場合に受け取りが可能です。
もともと被保険者期間が6カ月未満の労働者は助成対象になりませんでしたが、リーマンショック発生後には、被保険者期間が6カ未満の労働者も助成対象となりました。
リーマンショック時における中小企業緊急雇用安定助成金の支給決定額は、平成21年度が6,536億円、平成22年度が3,249億円です。
一方で、コロナ渦における雇用調整助成金は令和3年10月15日までの累計で4兆6,540億円とリーマンショック時より4倍以上の支給をおこなっています。
コロナ融資による倒産リスクと現状
新型コロナウイルス感染の拡大によって経営に苦しむ中小企業向けの処置は雇用調整助成金だけではありません。帝国データバンクによると、国内における実質無利子・無担保による融資(コロナ融資)は計55兆円にも及びます。
通常、銀行から融資を受ける場合は金利が発生し、返済リスクに備えて担保を要求されるのが一般的です。
その点、コロナ融資は無利子・無担保と、資金調達がしにくい中小企業にとって一見メリットしかないように思えるのではないでしょうか。
しかし、返済能力を超える借り入れによって、過剰債務を抱える企業が増加している点が問題となっています。
帝国データバンクが2022年8月に調査した結果によると、コロナ融資を受けた企業のうち約3割が2023年以降も返済が続くようです。徐々に景気が回復しているとは言え、返済期間が長引けば経営を圧迫し、収益より支出が上回ると返済を諦めざるを得ません。その結果、倒産する企業も増えています。
現状として、2022年にはコロナ融資を受けた384社の企業が倒産しており、前年の2.3倍増加しているのです。
2022年におけるコロナ融資を受けて倒産した企業数の多いトップ3の業種は、建設業が85件、卸売業が76件、製造業が65件となります。
雇用調整助成金の不正利用が問題視されている
ゼロゼロ融資であるコロナ融資をきっかけに倒産している企業が増えており、資金力が低い中小企業は資金調達方法を見直す必要があります。
雇用調整助成金を含む助成金や補助金は融資とは異なり、返済義務がありません。
しかし、厚生労働省は雇用調整助成金の不正利用を問題視しています。
労働新聞社によると、令和2年9月から3月12日末において、雇用調整助成金ならびに緊急雇用安定助成金の不正利用は計261件、金額にして32.3億円となるそうです。
対処すべく厚生労働省は、事前予告なしで立ち入り調査をおこなったり、企業名を公表したりと、各都道府県警察と連携して取締を実施。
ただし、企業が労働局に対して自主的に申告をおこない、全額納付した場合には企業名を公表しないとしています。
従業員の雇用を守る目的でおこなっている雇用調整助成金ですが、不正利用を少しでも少なくすべく積極的に厚生労働省は動いていると言えるでしょう。
とはいえ、2022年12月末までで計1,221件、187.8億円もの不正受給が起こっているのが現状です。
雇用調整助成金の返済義務がなかったとしても調査により不正受給が発覚した場合には、資金繰りの状況、また金額によっては倒産もあり得るでしょう。
正確な情報で届出をして、堅実な経営をおこなうことの重要性を改めて感じます。