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男性従業員の「育児休業取得状況の公表義務化」にどう対応する?

投稿日:2023年5月22日

男性従業員の育児休業取得がなかなか進まない中、育児・介護休業法の改正が行われ、2023年4月より常時雇用する従業員が1000人を超える企業の男性従業員の育児休業の取得状況の公表が義務化されました。

今後はより規模の小さい企業も対象になる可能性があるため、現在対象外の企業であっても、積極的に公表に向けた取り組みを進めておくのがよいでしょう。

今回は育児休業の取得状況の公表義務化に向けて何をしなければならないかや、現時点における公表状況などを紹介しますので、人事労務担当者が公表に向けた準備を進める上で参考にしていただければと思います。

育児休業の取得状況公表の対象企業

育児・介護休業法では「常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主(大企業)」が対象とされています。
「常時雇用する労働者」とは以下のものをいいます。

  • 期間の定めのなく雇用されている労働者(いわゆる正社員)
  • 期間の定めのある契約により雇用されている労働者(パート、アルバイトを含む)であっても、1年以上継続雇用されている者や1年以上継続雇用されることが見込まれている者

「1,000人を超える」は、1,000人を超えることが「常態」であることを指しますので、一時的にこれを下回る場合も含まれます。

公表する「育児休業取得状況」とは?

公表を行う日の属する事業年度の前年度の、男性労働者の「育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれかを公表します。
公表にあたっては、公表前事業年度の期間、「育児休業等の取得割合」「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のどちらの方式で計算したかも明示します。

①「育児休業等の取得割合」とは

(育児休業等をした男性労働者の数)÷(配偶者が出産した男性労働者の数)

②「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」とは

(育児休業等をした男性労働者の数+小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数)÷配偶者が出産した男性労働者の数

③「育児休業等」とは

育児休業(産後パパ育休含む)、3歳未満の子を育てる労働者の所定労働時間の短縮を行わない場合の代替措置義務または小学校就学前の子を育てる労働者に関する努力義務の規定に基づく措置として育児休業制度に準ずる措置を講じた場合の休業のことです。

④「育児を目的とした休暇制度」とは

育児を目的とすることが明らかな休暇制度(育児休業等と子の看護休暇を除く)のことです。年次有給休暇は含みません。

育児休業取得状況として①②を算定する際の注意点
  • 育児休業を分割して2回取得した場合、育児休業と育児目的休暇の両方を取得した場合は、同一の子に対して取得したものであれば1人としてカウントします。
  • 複数年度にまたがって育児休業等を取得した場合は、開始年度の取得として計算します。
  • 複数年度に分割して育児休業等を取得した場合は、最初の年度の育児休業等を計算対象とします。
  • 計算した「割合」の端数処理については、小数点以下第一位を切り捨てます。配偶者が出産した男性労働者が0の場合は「―」とします。

育児休業取得状況の公表時期・方法

年1回、自社のホームページ等の他、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」など、一般の方が閲覧できるように公表することとされています。
公表時期は公表日の前事業年度の育児休業取得状況について、前事業年度の終了後概ね3カ月以内とされています。例えば3月決算の企業であれば、6月末日までに公表します。

育児休業取得状況を公表しない場合の罰則

育児・介護休業法では罰則は定められていませんが、厚生労働大臣が事業主に対して報告を求め、助言、指導、勧告を行うことができ、勧告に従わない場合にはそれを公表することができることとされています。したがって公表しないことによる企業イメージの低下は避けられないでしょう。

育児休業取得状況の公表に関する企業の動き

厚生労働省のウェブサイト「両立支援のひろば」において、2023年5月現在で男性従業員の育児休業取得状況を公表している企業は、2023年4月に公表が義務化された1,001人以上の規模で合計で600社あまり、公表義務化の対象外である1,000人以下の規模であっても2,700社あまりとかなりの数にのぼります。

育児休業取得状況に関連して、次世代育成支援対策推進法において、常時雇用する従業員が101人以上の企業には育児休業制度等両立支援のための行動計画である一般事業主行動計画の策定と厚生労働大臣への届出、公表が義務付けられており、100人以下の企業にも計画策定と厚生労働大臣への届出の努力義務が課されています。

この規定については2005年に施行された後、2011年に対象企業が拡大(常時雇用する労働者301人以上⇒101人以上)されています。よって同様に両立支援の取組強化を目的としている育児休業取得状況の公表についても、今後対象企業が拡大される可能性が高いと考えられます。既に一般事業主行動計画とあわせて育児休業取得状況の公表義務化の対象外の多くの企業で公表されていますので、現時点では未公表であっても自社のイメージアップや従業員のエンゲージメントを高めるために育児休業取得状況を公表したほうがよいのではないでしょうか。

まとめ

2023年4月の育児休業取得状況の公表義務化は、常時雇用する従業員が1,001人以上の大企業に対象が限定されていますが、少子化の進展とあいまって両立支援の取り組みも強化されることが予想されるため、今後対象が拡大する可能性があるでしょう。

現在対象外である企業であっても、常時雇用する従業員が101人以上の企業においては一般事業主行動計画などで両立支援の取り組みを進めているところでしょうから、その成果を世に知らしめる意味でも育児休業取得状況を公表してみてはいかがでしょうか。それにより自社のイメージアップにつながり、従業員の採用活動やエンゲージメントの向上につながることでしょう。

【出典元】

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