従業員の働く環境をつくる(労務管理機能) 読みもの(人事・労務向け記事)

【Q&A】休みたくない社員から「有給休暇」を買い取りした場合はどうなる?

投稿日:2019年6月6日

有給休暇が溜まっている従業員から「仕事を休みたくないので、有給を買い取ってもらえませんか?」と言われた場合、どう対応すれば良いでしょうか?

今回は、従業員本人が休みたくない場合、有給を買い取る対応で問題ないのか見ていきましょう。

原則的には有給休暇の買い取りは禁止

労働基準法では、従業員から有給休暇の買い取り要求があったとしても、原則的には禁止されています。「有給休暇が溜まってしまい、休みたくないので買い取ってほしい」という要求があっても応じられません。

本来、有給休暇とは、従業員が仕事から離れて心身ともにリラックス、リフレッシュをするために取得することを目的としています。働かない日を設けることで、その役割を果たすので買い取りで解決することはできません。

万が一、有給休暇の買い取りに応じてしまうと、一部の例外を除いては違法になるので注意しましょう。

例外的に有給休暇の買い取りが有効になるケース

例外的に有給休暇の買い取りが有効になる3つのケースがあり、それらに該当する場合は買い取り可能となります。

【ケース①】法定日数を超える分の有給休暇を買い取り

労働基準法第39条では、以下の2つの要件を満たせば、労働者には法律上当然に有給休暇を取得する権利が生ずると定められています。

労働者に有給休暇を取得する権利が発生する要件

  • 6か月以上、継続的に勤務している
  • 全労働時間の8割以上出勤している

週30時間以上の労働者が上記の要件を満たせば、6カ月経過した日から1年ごとに10日以上の有給休暇が付与されます。正社員だけでなく、パートやアルバイトにも発生する権利です。

例えば、週30時間未満のパートの場合、週1日の勤務であっても、6か月経過すれば1日、1年半後には2日の有給休暇が与えられます。
そして、法律に定められた日数を超える有給休暇を付与している場合、その基準を超える分の有給休暇については買い取りをしても違法とはなりません。

【ケース②】2年間の消滅時効を迎えた有給休暇の買い取り

有給休暇の消滅時効は2年間ですので、翌年に限り繰り越すことが認められます。 2年間の時効が切れ、消滅する分の有給休暇については買い取り可能です。
ただし、企業側が買い取りしなければならないといった法律上の義務はなく、企業の意向での対応となります。
業務多忙や人員不足により、有給休暇が取得できず、有給休暇が時効消滅する従業員の場合は買い取りを検討しても構いません。

【ケース③】退職する際に残っている有給休暇の買い取り

従業員が退職する際、消化しきれずに残っている有給休暇についても、買い取りが可能です。退職時に消化されていない有給がある場合、残っている有給休暇の日数分だけ退職日を延ばしてもらうという対応もあります。

ただし、退職日を延ばすと業務上、支障が出る可能性もあるので、退職する社員が希望する場合は買い取りすると良いでしょう。退職時の有給処理についても、企業側の法律的な義務はなく、企業の意向に委ねられます。

要注意!有給休暇を会社が強制的に買い取りした時の罰則

罰則

労働基準法は、原則として有給休暇を会社が買い取ることを認めていません。有給休暇とは、従業員がゆとりある生活を実現することを目的とした権利だからです。

万が一、有給休暇を会社が強制的に買い取りした場合、もしくは社員が有給休暇の取得を希望したにもかかわらず拒否した場合は、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則が定められています。

有給休暇を与えないということは、刑事罰に値する行為となるので、十分に注意が必要です。

まとめ

従業員から「休みたくないので、有給休暇を買い取ってください」と要求されても、原則的に買取は禁止されています。ただし、未消化分が溜まっていて時効になった場合や退職する際には、例外が適用されるので、買い取りを検討すると良いでしょう。

従業員とのトラブル防止のためにも、事前に就業規則に有給休暇の取り扱いについて記載することをおすすめします。

-従業員の働く環境をつくる(労務管理機能), 読みもの(人事・労務向け記事)
-

関連記事

コロナ禍の長期化により導入する企業が増加中―「在籍型出向」の概要と導入方法、国の支援について解説

新型コロナウイルスの感染拡大で、様々な業界が大きな経済的痛手を受けています。これらの業界では仕事量が減少し、余剰人員を抱えている状況です。一方で、有効求人倍率(季節調整値)は、この状況下においても1. …

【社労士が解説】有給休暇義務化を始めるなら「計画的付与制度」も活用しましょう

労働基準法の改正により2019年4月から、年次有給休暇のうち5日については、雇う側が休むように促し、日を決めて休ませなければならないようになりました(※参考記事)。 この法律改正に向けた対応策のひとつ …

【新型コロナ】「雇用調整助成金」で注目を集める「休業手当」、緊急事態宣言下で支払わなくてもよい?

未曽有のコロナショックで、やむなく休業をする店舗や会社が増えています。こうした中、「休業中の従業員に休業手当は払うべきか?」という使用者側の疑問や、「突然、休業を言い渡されたにも関わらず、休業手当の支 …

中小企業ほど実践すると効果が出る!360度評価を実践してみよう!

社員が評価制度に不満があるという声をよく聞くけれど、具体的にどうすればよいのだろう。 ● 出来れば社員に定着してほしいのに、本音を話さずに黙って退職されてしまう。 ● 残ってほしい人ほど去って行って、 …

有給休暇義務化の法改正後のポイントや罰則について解説

【社労士が解説】有給休暇義務化、罰則や法改正のポイントついて徹底解説!

2019年4月から施行される「有給休暇5日取得義務化」。政府が推進する働き方改革の一環で、労働基準法の一部が改正されたことにより始まります。この改正により、「1年のうち5日は必ず有給休暇を取得させなけ …