育児休業を取得すると、その間、給与や賞与から天引きされる社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)が、被保険者分・事業主分ともに免除されることになっています。免除される月は、「育休の開始月から終了日翌日の前月」とされてきましたが、今回、育児・介護休業法の改正にともない、免除月のカウント方法に一部見直しが入りました。本記事では、2022年10月より施行予定の、育休中における社会保険料の免除要件改正の中身について紹介します。
これまでのルールと問題点
これまで育休中の社会保険料に関しては、「育児休業等を開始した日の属する月~その育児休業等が終了する日の 翌日が属する⽉の前月までの期間」において、保険料を免除するとされてきました。
たとえば、2021年7月1日から2022年3月31日(月末)まで育休を取得した場合、「2021年7月(属する月)~2022年3月(終了日翌日である4/1の前月)」までが社会保険料の免除期間です。
あるいは、2021年7月1日から2022年3月30日(月末の1日前)まで育休を取得した場合、終了日(3/30)の翌日(3/31)が属する月の前月までが免除月となるため、「2021年7月(属する月)~2022年2月(終了日翌日である3/31の前月)」までが社会保険料の免除期間となります。
このように、従来のルールでは、育休の終了日が1日異なることで、免除期間にひと月分の違いが発生するケースがありました。ひと月分違えば、支払う保険料の額に数万円程度の差が生まれることも少なくありません。こうした状況は、通常の給与だけではなく、臨時で支払われる賞与(ボーナス)についても同様に扱われてきました。
ケース1は、月末をまたいで「3日間」育休を取得した事例です。ケース2は、月末をまたがず、同月内において「14日間」育休を取得した事例。これらの2ケースについて、現行法のうえで免除月をカウントした場合、ケース1については「6月分の1カ月」、ケース2については「免除なし」となります。育休の取得日数は、ケース2の方が多いにも関わらず、です。
また、これとは別の問題点も指摘されています。以下の図は、健康保険組合に加入する男性被保険者における育休中の保険料免除対象者数を示した図です。12月に育休を取得する男性が、極端に多いという結果が出ています。また、6月~7月も多い傾向がうかがえます。
なぜでしょうか。理由のひとつとして、賞与に対してかかる社会保険料の免除を狙って、あえて賞与支給月に育休を取得している人が一定数いるからだと考えられています。なかには、「賞与支給月の月末1日だけを休みたい」と相談してくる育休希望者もいるそうです。
これでは、男女で育児を分担する、あるいは女性の育児をサポートするという本来の目的を達成できているのか、定かではありません。
育休中の社会保険料、免除要件はこう変わる
上記の問題点をふまえて、次の2点が見直されることになりました。
(1)月末に休んでいなくても育休「2週間以上(歴日数)」であれば免除に
1点目は、現在の仕組みに加える形で、育休開始日と育休終了日の翌日が 同じ月内にある場合、育休取得日数が「2週間以上」であれば、その月の社会保険料を免除するというものです。
たとえば、7月10日から育休を開始し、同月の27日に育休を終了する場合、従来だと「月末に育休を取得していないため、免除月はナシ」でした。しかし今回の法改正によって、月末に休んでいなくても、育休取得日数が「2週間以上」なので、7月を免除月とすることができるようになります。
この「2週間以上」は連続している必要はなく、通算であってもOKとされています。「出生時育児休業(男性版産休)」が来年10月よりスタートしますが、この制度を活用し、同月内に2回に分けて育休を取得した場合でも、通算して2週間以上の育休であれば、その月を免除月にすることが可能になります。
(2)賞与は「連続1カ月超(歴日数)」の育休取得者のみ対象に
2点目は、賞与支給月の扱いについてです。現行法では、賞与支給月の月末において育休を取得していれば、当月の社会保険料(賞与を含む)が免除される仕組みでした。先ほど例をあげたように、12月末の1日だけ育休を取得した場合であっても、当月の社会保険料を賞与分を含めて免除することができたのです。賞与が多い場合は、相当な免除額になることもあるため、裏技としてネット上で紹介されたりもしています。
しかしこれでは、賞与支給月狙いの育休者が増えてしまい、「育休取得を通じて積極的な育児参加を促す」という本来の目的とは違ってきます。そこで追加の要件として、 賞与の場合は「連続1カ月超」の育休取得者に限ることが、新たなルールとして加わりました。裏を返せば、1カ月以内の育休の場合、賞与の社会保険料免除は行われないということです。
なお、(1)(2)ともに、社会保険料免除となる休暇期間は「歴日数(カレンダー上の日数)」でカウントします。
「給与」と「賞与」を分けて考える
この2つの要件が新たに加わったため、今後、社会保険料免除月のカウントを行う際、次のように給与と賞与を分けてカウントすることが望ましいです。
「給与」については…
(1)月末に育休中であれば、当月を免除月とする(従来どおり)
(2)月末に育休中ではなくても、同月内に2週間以上の育休を取得していれば、免除月とする(新たに追加)
※月末に育休中ではなく、通算2週間に満たない場合は、免除月にはならない(従来どおり)
「賞与」については…
(1)賞与支給月の月末において育休中で、なおかつ、その育休が「連続1カ月超」の場合のみ、賞与分の社会保険料を免除する
このように、給与と賞与で要件が変わるため、同じ月であっても、賞与は免除されないが、給与は免除されるケースが発生します。たとえば、以下のようなケースが起こりえます。
なお、本法改正の施行は、2022年10月1日の予定です。
さいごに
今回の法改正は、現行法の問題点を是正するための見直しだといえます。(1)については、「月末時点」だけではなく、「育休の取得日数」も鑑みて、免除月をカウントしようとするもの。(2)については、賞与支給月に育休取得者が集中している現状を、本来あるべき姿へと戻すためのものです。2022年10月からは、男性版産休とも呼ばれる「出生時育児休業」がはじまり、男性の育休取得がより促進されていきます。それに向けて、より本来の目的に叶う形へと、制度が見直されているところです。この男性育休取得促進の流れは、まだ当分の間、続くのではないでしょうか。
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。