企業の人事担当者のみなさん、社会保険関係の書類を電子化しませんか?
社会保険に関係する書類は、事業が継続していくにつれて、増える一方です。増えた書類の保管にはスペースが取られるため、電子化して保存することが、一つの解決策といえるでしょう。しかし、書類の電子化には費用が掛かるため、二の足を踏んでいる企業が少なくありません。それ以外にも「何となく」、「慣れている」といった理由で、不便を感じながらも書類を紙のまま保管し続けているのではないでしょうか。
この記事では、以下のようなことを紹介します。
- 書類保管の現状
- 保管が必要な書類と、保管が求められる期間
- 書類の電子化とe-文書法
- 書類電子化のメリット
2005年に施行されたe-文書法によって、見読性のある書類については、紙での保管は必要がなくなりました。保管が必要な書類とその期間について学び、適切な情報管理をおこないましょう。
書類保管の現状
会社で使用する書類には、法律で保管が決まっている書類が沢山あります。
定款など、永久的に保管すべき書類も存在するほか、商法・税法などの法律によって、書類の保管期間は定められています。誤って破棄してしまった場合は、会社法976条にもとづき、100万円以内の罰金が科せられる可能性があります。[1]
会社では、毎日さまざまな書類が発生。発生した書類は、法律にもとづき保管する必要がありますが、紙の書類の場合、書類ごとに分類し、ファイリングをおこなったあと、保管されます。書類は日に日に増えていくため、会社には書類庫などが設置され、まとめて保管されているのではないでしょうか。
しかし、会社が続く限り書類は増え続けるほか、保管中の書類が必要になった際には、探し出す必要があり、書類保管のために使われるスペースや、保管・整理・持ち出しのための人的コストは、会社にとって負担といえるでしょう。
保管が必要な書類と、保管が求められる期間
社会保険に関連する書類は、各種の法律によりその保存期限が定められています。
雇用保険に関する書類
雇用保険法施行規則第143条には、以下のように記されています。[2]
- 事業主及び労働保険事務組合は、雇用保険に関する書類(雇用安定事業又は能力開発事業に関する書類及び徴収法又は労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則による書類を除く。)をその完結の日から二年間(被保険者に関する書類にあつては、四年間)保管しなければならない。
雇用保険に関する書類とは、雇用保険被保険者関係届出事務等代理人選任・解任届や、雇用保険被保険者資格取得等確認通知書などのことです。
雇用契約に関する書類
労働基準法109条には、以下のように記されています。[3]
- 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。
雇用契約書や解雇通知書、タイムカード、残業命令書などのことです。
また、多くの書類について、2020年から保管期間は三年から五年に延長されました。[4]
健康保険に関する書類
健康保険法施行規則第34条には、以下のように記されています。[5]
- 事業主は、健康保険に関する書類を、その完結の日より二年間、保存しなければならない。
健康保険に関する書類とは、資格取得確認通知書、資格喪失確認通知書、被保険者標準報酬決定通知書などのことです。
労災保険に関する書類
労働者災害補償保険法施行規則第51条には、以下のように記されています。[6]
- 労災保険に係る保険関係が成立し、若しくは成立していた事業の事業主又は労働保険事務組合若しくは労働保険事務組合であつた団体は、労災保険に関する書類(徴収法又は労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則による書類を除く。)を、その完結の日から三年間保存しなければならない。
労災保険に関する書類とは、労災保険の請求書類などのことです。
では、期間が過ぎれば、保管された書類を破棄して問題ないのでしょうか。
法律の観点から言えば、破棄をしても問題ありません。ただし、裁判での資料提出を求められた場合には、保存期間を過ぎても書類の提出が必要な場合があります。
民法の規定第724条によると、損害賠償請求権の消滅時効は20年です。そのため、不法行為を疑われ、資料の提出が求めらられる可能性を考え、20年は書類を保管しておく必要があるでしょう。[7]
- 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
- 二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
労働者保護の観点から、社会保険に関連する書類はより長期的、永久的な保管が求められていくでしょう。現在、紙ベースで運用している書類は、より多く・長期的に保管していく必要があります。
書類の電子化という選択肢
ここでおすすめしたいのが、書類の電子化という選択肢です。
2005年に施行されたe-電子法は、民間事業者がおこなう文書の保存、作成、閲覧等について、原則として電磁的記録(電子化)によることを可能とするものです。[8]
e-電子法では、様々な書類の電子化を許可しており、その対象範囲は、当時251本の法律にまたがるものでした。
似たような法律に1998年に施行された電子帳簿保存法というものがありますが、こちらは国税関係書類などの法定保存文書を中心としたものです、e-電子法はその範囲を多くの書類に広げています。
文書の電子化に求められる要件は以下の通りです。
- 見読性:作成・保存した文書をパソコンやディスプレイなどから明瞭な状態で確認できる。
- 完全性:電子化にいたる過程で、改ざんや消去が無く、紙の文書と電子化した文書が同一であることが証明できる。
- 機密性:盗難、漏洩、覗き見などを防ぐことができる。
- 検索性:必要に応じて、求める文書データをすぐに引き出せる。
各文書によって、求められる技術要件は異なります。[9]
電子化を検討している文書にどのような技術要件が求められているかを確認しましょう。
また、社会保険関係の書類だけではなく、多くの文書が電子化可能です。電子化を導入する際には、他の文書の電子化も考慮に入れ、PDFなどの使いやすいフォーマットや、文書管理システムでの保存を検討しましょう。
書類電子化のメリット
書類の電子化サービスを利用するメリットには、以下ようなものがあります。
- 書類の保管に使っていたスペースを、有効に活用できる
- 書類整理に伴う、人的コストを削減できる
- 災害対策を念頭に置いた、情報管理
特に、災害やテロに対して、事業の継続をおこなうための包括的な準備として、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)という考え方が広まってきました。施設や設備の被害が軽微であっても、業務に必要なデータが失われてしまえば、事業の継続は困難です。広域災害に備えて、書類データをバックアップしておくことが重要です。[10]
社会保険関連書類の保存期間を守り、適切な情報管理を
保管スペースを取り、増えて行く社会保険関連書類ですが、長期の保管が求められるようになりました。スペース・セキュリティの面からも、書類の電子化にはメリットが多いと勧化られます。保管期間を守り、適切な情報管理を心がけるとともに、事業の継続をおこなうための包括的な準備として、書類の電子化を検討しましょう。
[1] 法務省:会社法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
[2] 厚生労働省:雇用保険法
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75161000&dataType=0&pageNo=1
[3] 厚生労働省:労働基準法
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73022000&dataType=0&pageNo=1
[4] 厚生労働省:改正労働基準法等に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/content/000617980.pdf
[5] 厚生労働省:健康保険法
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84024000&dataType=0&pageNo=1
[6] 厚生労働省:労働者災害補償保険法施行規則
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=330M50002000022
[7] 内閣官房:民法
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hourei/data/CC1_2.pdf
[8] 首相官邸:民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000149
[9] 首相官邸:e-文書法によって電磁的記録による保存が可能となった規定
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/others/syourei.pdf
[10] 内閣府:事業継続ガイドライン
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/pdf/guideline202104.pdf